ふじたけ

書かれた顔のふじたけのレビュー・感想・評価

書かれた顔(1995年製作の映画)
5.0
10/21 ユーロスペースで修復版。
自分に体現されていない観念を、生活の中から見つけた記号を元に想像力で構築していく。そうして初めて、この世界のどこにも存在しない、その観念の真実が現れる。女性は、「女性」そのものであるゆえに、「女性」という観念の理想には辿り着けない。それを実現するためには、一度自分を捨てて、女性であることを忘れるしかないのだ。
そして、この映画自体もカメラの前にある現実を忘れ去ることで、その奥底に眠る潜在的な映画に到達しようとしている。玉三郎が女形の玉三郎を見るシーンや次々と移り変わるモンタージュのみだけでなく、閉じ込められた空間で生を自身の肉体で爆発させる大野一雄は、映画とは違う音楽に合わせて舞っていたことからも明らかである。この危険極まりない試みの結果、「書かれた顔」は類を見ない崇高な映画となったのだ。
 修復版で見やすくなっていたのだが、冒頭や最後の舞がはっきりしすぎて、今にも消えそうな有限さが失われてしまっていたのが残念。

8月 シネマブルー 35mm
舞踊を極めた伝説たちが、シュミット生み出す甘美なる夢幻の迷宮で、美を紡ぎ出す崇高なる映画。感情の変化に合わせて、流れるように繊細に舞う女形の玉三郎が、暗闇にうっすらと青く浮かび上がるシーンから映画は始まる。冒頭のクレジットのカット、下から斜めに旗を写しながら移動するフレームに玉三郎がすっと左から入る驚き、彼はそのまま歩き続け一つの屋敷前に止まるが、カメラは移動を続け、引きで屋敷と彼を映し出す。
 アクションと音で華麗に繋ぐ編集、ゴダールほどではないが、役者がその全てを補っている。白けた紺碧の最中に黒く浮かび上がる大野一雄の舞踊には涙が出そうになる。
これほどの映画をほとんど誰もいない劇場で、35mm上映してくれたシネマブルースタジオに感謝。人生で一番を競うかけがえのない映画体験でした。
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