カツマ

ハクション!のカツマのレビュー・感想・評価

ハクション!(2020年製作の映画)
3.8
ヒーロー映画なのに主人公が特別じゃない。だからこそ、彼は何度でも立ち上がる。超能力なんてないけれど、愛する人のためだけに誰にも負けないヒーローになる。強くはない。けれど、その拳だけを握りしめ、真っ直ぐな想いは何より強固な力になった。これは異色なヒーロー映画。場末に転がるカッコよくはない彼が、最高にカッコいい姿になってそこにいた。

この台湾産のヒーロー映画は、本来は2014年に公開されるはずだった。しかし、何やかんやと事情があり、公開は無期限の延期に。それが2020年にようやく劇場公開され、こうして日本でもNetflixで観ることができるようになった。今作は日本でもリメイクされた『あの頃、君を追いかけた』の脚本を担当したギデンズ・コーと、主演のクー・チェンドンが再びタッグを組んだ作品で、昨年の台湾国内の興収ランキングで7位にランクインするという健闘を見せた。ヒーローが存在する世界線で、超能力もない主人公が奮闘するという珍しい脚本も魅力的な作品だった。

〜あらすじ〜

そこは超能力を使うヒーローが悪者と対峙する世界。かつてイナズマヒーローと呼ばれたヒーローがいた。彼はたくさんの人を救ったが、その分、騒乱に巻き込まれた人は多く、大量の孤児を生むこととなってしまう。その後、次第にイナズマヒーローは現れなくなり、長い年月が経った。
ヒーローとヴォランのバトルに巻き込まれ、親を失った孤児たちは施設へと送られた。その施設で育った孤児のイージーは、共に施設で育ったシンシンに片想いを続けていた。やんちゃだった子供時代を過ぎ、大人になったイージーは、シンシンに相応しい強い男となるため、ボクサーを志す。しかし、都会で働くシンシンにはイージーよりも強い彼氏ができていた。その彼氏こそが現代のヒーロー、ソニックマン。超能力を持つヒーローに対抗するため、イージーは幼い頃に会った隠居中のイナズマヒーローに弟子入りすることにして・・。

〜見どころと感想〜

この映画はマーベル映画、またはヒロアカのような世界観の中にあって、主人公はロッキーのような設定を持っている。そのため、何も取り柄のないように見える主人公が、馬鹿正直に愛する人の理想の自分になろうとする姿が健気で、いつの間にか応援側にまわっている自分がいた。スポ根で、情熱的で、そして、何よりも希望と愛に溢れていて、それでいて嫌味がない真っ直ぐさが魅力的な作品だった。ハクション!の意味はいろんな意味に解釈が可能。いつかは超能力の発動に期待しながら見てしまうけど、その瞬間は訪れるのか!?

主演は『あの頃、君を追いかけた』でブレイクしたクー・チェンドン。しかし、彼の大麻事件が発端となり、本作は一度はお蔵入りの危機を迎えている。共演には2010年代に何本かの主演映画への出演もあるアリエル・リン。他にはアジア圏を中心に経験豊かなヴァネス・ウーなどが出演している。

今作はギデンズ・コーが『あの頃、君を追いかけた』と『怪怪怪怪物!』の間に撮った作品ということで、台湾映画を追っている映画ファンにはそれだけでも期待感が募ってしまう。ギデンズの脚本は基本的に青く、ピュアだが、現実的でもある。この作品にもそれは反映されていて、ヒーローがただ悪者を倒す、という一辺倒な勧善懲悪物語とはなっていない。ヒーローの定義とは?勇気ある者とはどんな人なのか。ただのヒーロー映画ではないヒーロー映画として、今作は一つの新境地を切り開いた作品のようにも感じた。

〜あとがき〜

台湾映画集中年間の今年ですが、今作もまた昨年の台湾国内の興行ランキングで上位に食い込んだ作品です。ベタなのにベタじゃない。ヒーロー映画なのに、主人公が普通の青年。という異色さが魅力的で、どんな着地を決めるのか想像できない作品でもありました。

ヒーローの定義を再確認させながら、愛する人のために戦う、という王道感は貫いてくれるため、非常にキャッチーな物語でしたね。エンドロールの先にはどんな想いが溢れ出すのか、それは想像で埋めていくしかないのでしょうね。
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