Masato

この茫漠たる荒野でのMasatoのレビュー・感想・評価

この茫漠たる荒野で(2020年製作の映画)
3.8

真っ直ぐ

社会派エンタメ監督のポール・グリーングラスとトム・ハンクスによる西部劇。ニュースの朗読を生業とするキッドが森の中で彷徨っていた孤児の少女を届けるために旅をする。

王道の子連れ狼的な西部劇。エモーショナルな擬似親子の関係から人生を見つめ直す老人と生きる希望を見出していく孤児という好きじゃない人はいないくらいの良い話。過酷だった西部開拓時代ということもあり、壮絶な人生の程度が容赦ないし、遭遇するトラブルも生死を左右する出来事。だからこそ、どんな時でも過去を引きずらずに真っ直ぐ前を向いて生きることの大切さを教えてくれる。トム・ハンクス持ち前の泣かせる演技が遺憾なく発揮されている。

また社会派の監督らしくニュースの力の素晴らしさを当時の影響力の凄まじさを通して描いている。当時は自分の見える範囲でしかほとんど情報が入っておらず、言伝だけも多かったと思う。他の世界を知らないからこそ今いる世界が当たり前だと思ってしまう。自分がこき使われるのも、黒人やメキシコ人や先住民が悪と思うのも。それはどの時代でも一緒。物事は疑問から始まる。そのためには自分の世界との比較対象が必要。世界を知ることがどれだけ大切なのかを描いている。

と同時に世界へ悲惨な現状を語り続けるジャーナリスト、映像作家、映画監督たちへの讃歌とも言える。主題ではないが、本作の片隅にジャーナリズムの秘めた魂あり。前作の7月22日で極右思想を徹底的に糾弾した監督らしい、かつての(そして今も)差別が酷い南部に対する憎しみある描写。

スリリングな駆け引きのアクションや孤児とのユーモラスな会話、撮影賞にノミネートされた雄大な自然を自然光で撮ったナチュラルな映像美は見ごたえバッチリ。細部まで凝られた美術も必見。総じて高水準な映画。
Masato

Masato