空海花

これからの人生の空海花のレビュー・感想・評価

これからの人生(2020年製作の映画)
4.1
前回に続き、ソフィア・ローレン主演。
監督は息子エドワルド・ポンティ。
脚本ウーゴ・キーティ。
原作はロマン・ガリ『これからの一生』
(エミール・アジャール名義)
フランスで一度映画化されている。
ロマン・ガリはジーン・セバーグの夫。
映画界でも監督や脚本を。
高齢のユダヤ人女性と孤児のセネガル人少年の心の交流を描いたヒューマンドラマ。

マダム・ローザ(ソフィア・ローレン)は売春婦の子供たちを養育しながら生計を立てていた。
彼女は市場でひったくりに遭うが
それが12歳の黒人少年モモ。
知人のコーエン医師が預かっている少年で、コーエン医師はモモに謝らせると共に彼女に彼を預かってほしいと伝える。

イタリアの海辺の街、青い海。
色鮮やかな風景。建物の落書き。
物語はモモの目線で語られていく。
家には同年代の中東系の少年ヨシフと
売春婦のローザ、その幼い子供バブーが住んでいた。
それぞれ劇中でさりげなく語られるが
ローザは元ボクサーだったみたい。
子供の母親についての短い台詞があることでニューハーフであることが察せられる。
ヨシフは身分証がなくて学校には行けず
家で勉強をしている。
ヨシフとは反発し合うが、次第に兄弟のように打ち解けていく。
現代向けの脚色かなとも思うが
この自然な登場人物としての描き方が良かった。

モモは非行少年には違いなく
外で麻薬の密売の仕事をしていた。
イスラム教徒でもある。
それでも時々見せる屈託のない笑顔は少年そのもの。
マダム・ローザから知り合いの商店の手伝いをするように言われる。
その店主アミリさんとの交流も大切なシークエンス。
嫌いなことは上手くできる。
「全ては繋がっている 特に善と悪は」
「言葉は最高の武器」

マダム・ローザの腕に数字を見つけると
ヨシフとあれはスパイの暗号なんだと言っているのが微笑ましい。

久々に姿を見せたソフィア・ローレンの迫力ある演技は圧巻。
赤いローズ柄の白のワンピースで
ローザと躍るシーンを見ていたら不意に泣けてきた。
老いるとはなんて素晴らしいことだ。

信頼できる人達とようやく打ち解け始めたモモ。
だが、マダム・ローザの様子がだんだんおかしくなっていることに気づく…
雨の中、呆けるマダム・ローザ。
マダム・ローザの秘密の場所。

モモを演じるイブラヒマ・ゲイェ君も素晴らしい。
アウシュビッツどころか、大女優ソフィア・ローレンの活躍さえ知らないかもしれない年頃。
無邪気さと物怖じしなさと芯の強さを見事に演じている。
劇中、自転車に乗りながら
“これからの人生”を詩のように語るシーンが文学的で良かった。

「僕は若い 人生はこれから
 幸せのために媚は売らない」
「どうせ人種が違うんだ」

彼は心の中にライオンを飼っている。
宗教的な象徴もあるのだろうか。
母なる存在のよう。

ユダヤ人のホロコーストとムスリム、
難民や貧困、ドラッグなど
現代も続く社会問題が出て来るが
街の中に溶け込んで見える。
大げさではなくナチュラルに見えた
この描き方が良かった。
影を抱えつつも、それなりに
手を取り合うようなところは
イタリアのお国柄なのかもしれない。

少年が為したことに関しては、
そんなに簡単にはいかないだろうけれど
彼の気持ちはその手から伝わる。
イタリアの陽光とソフィア・ローレンには、黄色い花がよく似合う。
エンディング曲が流れる中
余韻で動けなくなるほど感動した。
この作品が、ずっと銀幕から姿を消していた母ソフィアへの、息子からの贈り物
だと感じてしまったからだ。
でも本当は逆なのかもしれない。
どうかな。


2021レビュー#071
2021鑑賞No.117


ゴールデングローブ賞歌曲賞受賞
余韻に溶け込んでいて♬とても良かったです。
同外国語映画賞にもノミネート。
☘ミモザの香り好きです😌
空海花

空海花