くるぶし

声もなくのくるぶしのレビュー・感想・評価

声もなく(2020年製作の映画)
3.8
のどかな夏の田園風景に溶けこむ死体処理と擬似家族の行方。

途中なんどか想像を裏切られる展開があってわくわくした。
不穏な空気と緊張感が最後まで持続する。そしてラスト、糸がぷつりと切れてから結末までの工程をたどると、ものすごく細やかな描写が積み重なっているように感じた。

間違えて誘拐された少女チョヒの存在がせつない。
荒れ放題の部屋を片付け、服を洗濯し、テインの妹の面倒を見てかわいがる。
利発な彼女の「生きる」ことへの執着がここに見える。父親に身代金を払ってもらえない理由、“女性”であることをふんだんに利用するのだ。そして皮肉なことに、その方法は一定の効果をみせる。

ただひ弱なだけではないチョヒと、テインの置かれた社会的立場を対比させるのがうまい。


弱いものは容赦なく見捨てられる時代だ。
“声を発さない”男テインは、もの言えぬ人々、話すら聞いてもらえぬ人々の姿が投影されているのではないだろうか。

音なき叫びが広く轟く澄んだ社会であれ、と願う。
くるぶし

くるぶし