mimitakoyaki

声もなくのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

声もなく(2020年製作の映画)
4.1
不思議な肌触りの作品でした。
シリアスなものをイメージしてたら、初めからすごく映像が明るくて、田舎の鮮やかな木々の緑や青空がカラッとして爽やか。
そこで卵の移動販売を営むテインとチョンボクは、ヤクザが拷問して殺した遺体を処理する裏稼業でなんとか生きていて、美しい田舎の風景の後に吊るされた死体を見せられてギョッとさせられます。

そんなギョッとさせられるような残虐なシーンでありながら、オフビートでおかしみもあり、またテインのど底辺な暮らしぶりは深刻で、小屋のようなゴミ屋敷に住み、妹はお腹を空かせて小汚く、完全なネグレクトなのですが、誘拐された少女チョヒを預かり一緒に暮らすようになってからは、ほのぼのとした雰囲気もあったりして、善と悪、美しさと汚さ、残酷さと可笑しさといった相反するものが同居してたり、境界が曖昧になってたりして、そこがこの作品の独特な味わいになってて、とても個性的でした。

口がきけないテインや足の悪いチョンボクの関係性や生い立ちなどの過去、背景などは特に説明がなくわかりませんが、テインは障害のケアもされず、福祉も受けず、教育も受けてなさそうだし、当然貧困で、社会から見捨てられたような青年です。
妹らしき小さい女の子ムンジュと住んでいますが、その子をちゃんとケアするわけでもなく、その術を知らないし、きっと自分もそうやって育ってきたから、そういうもんだと思ってるのかもしれません。
客観的には、すぐに保護やケアを必要とする人達なんです。

彼らのことを知ってる人もいたけど、ずっと見過ごされてきたんだと思うと、社会としての問題を感じるし、韓国映画やドラマで割に出てくる子どもの人身売買とか、どうしようもなく残酷で悲惨な現実が盛り込まれています。

また誘拐されたチョヒは、食べる時は家長からだというマナーや、家長に対する言葉遣いなどもムンジュに教えたりしてて、幼い頃から家父長制が染み付いてるのを感じさせます。
その最たるものが、女の子だからと実の父親に身代金の支払いを拒否されるということなんです。
めちゃくちゃ賢いよくできた子であっても、女の子だから身代金を払う価値がないなんて、なんという冷淡さか…。

賢く冷静なチョヒは、ゴミ屋敷の片付けをしたり洗濯をしたり、ムンジュの面倒を見るなどの母親的役割を自ら担っていくのですが、それも「優しさ」だけでなく、売られたり殺されたりされないように、より安全に生きるための術としてやっていたようにも捉えられます。
女の子というだけで差をつけられ大事にされない韓国社会の歪みを映していて、社会的な視点がいろんなところに盛り込まれているのも、とても良かったです。

一切しゃべらず、デレっとしてダサいユアインもさすがで素晴らしいのはモチロンなのですが、わたしとしましては、ユジェミョンの一挙手一投足に心を奪われ、ちょっとした表情や言い方、身のこなし、何もかもが巧くてときめいてしまいます。
ほんとに大好き!
大事な役なのに雑な扱いをされてるところまで大好き!

それにしてもですよ、あんなに頻繁に人が殺される町ってある?
子どもを身代金目的で誘拐したり、人身売買で売り捌く人間もいるし、ドス黒い田舎町ですよ。
顔からして胡散臭いオッサンも何人も出てきて嬉しかったです。

ユアイン 12作品目
ユジェミョン 17作品目
チョハソク 9作品目

30
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