あーさん

ドライブ・マイ・カーのあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

評価も高く、カンヌ国際映画祭でも脚本賞とあらば、、と勇んで鑑賞したのだが、噂に違わず素晴らしい作品だった❗️

"喪失からの再生"
ありがちなテーマかもしれないが、濱口監督(今作が初めまして♪)の見せ方が秀逸で、原作の村上春樹色を上手く消しながら、更にアップデートした形で作り込んでいるのがお見事!

あらすじを書くと途轍もなく長くなりそうなので、特徴と感想のみ。

まず、車に乗っている時間がとても長い。
たまたま読んだ"文学界"という雑誌の中で、監督自身が "キアロスタミの自動車映画を意識した"と書いてあった。
車を走らせると景色が変わり、心も動く。
しかも運転してもらう事で、自分の心に集中して向き合う時間になる。主人公の心の旅。。
赤いサーブが、まるで登場人物の一人のように、主人公に寄り添っているのが印象的。

それから、他言語演劇を挟み込むという演出。これは原作にはなく、監督のオリジナルらしい。
日本語、韓国語、英語、北京語、フィリピン語、ドイツ語、マレーシア語、インドネシア語、、それに加えて韓国手話。
本番では、それぞれが別々の言語を話し、後ろのスクリーンに字幕が出る仕組みなのだが、稽古では'イタリア式本読み'というスタイルがとられていて、各々の言語の台詞を感情を入れずに読み合う。
そんな稽古場風景からも、人と人とのコミュニケーションの有り様を考えさせられる。

人は、同じ言語で話していればわかり合えるのか?
伝え合うことの大切さ。

主人公と妻の関係を思う時、何とも言えない空気感があった事を思い出す。

言葉と演技と、感情と本音と。

隔たりができてしまったのは、あの時から?

ベッドで妻が語る'ヤツメウナギの話'の中の女の子は、きっと誰かに気づいてほしかったのだろう。

言葉に出来ない虚しさから逃げるように、妻は他の男と寝た。
何も消化できないまま、心に蓋をして生きていた。

高槻という妻の浮気相手の存在が、主人公の心をさらに掻き乱す。
彼は妻と同じ"空っぽ"の男だった。
行き当たりばったりでクズのようなその男は、何故か真理のような事を口にする。
岡田将生の演技が素晴らしい。

妻を失った主人公が、ふとしたきっかけで運転を任せることになった若い女性ドライバーと過ごす中で、心に新しい風が吹く。
どこか人には言えない複雑な過去を持つ者同士の二人。
お互いが自分を改めて見つめ直すことで、長い間錆び付いていた心が少し、前に動き出す。
三浦透子のやさぐれ感と存在感、すごい。

韓国人のコーディネーターが、とても温厚な人柄で素敵だった。
その妻役で韓国手話で演技するパク・ユンスの透明感!こんな女優さんいたんだなぁ。。

西島秀俊は、知的だけれど自分の感情に素直になれない不器用な主人公をとても上手く演じていた。
裸になった時の体の鍛えられ方がハンパない!
妻役の霧島れいかも(実は自分とそこまで歳は変わらないのだが…)体が美し過ぎて、ため息!
感情を排したカセットテープの彼女の声、永遠に聴いていられた(それは、あのメソッドだからか…)。

瀬戸内の海、北海道の雪景色、、地方の自然の美しさが心に残った。

角度を変えて、いろんなアプローチができる作品だと思う。
チェーホフのワーニャ伯父さん、読んでみたいし、舞台も観てみたい。
村上春樹も今作で読みたい気持ちが再燃して、1Q84読んでる途中(小説はやっぱりクセがすごいけど笑)。
物語の面白さと、重いテーマの掛け合わせは、やはり村上節なのかな。

監督の力量も、ものすごく感じた。

良い映画だった!!



そして、また人生はそこから続いて行く。。


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後日、元になっている村上春樹の短編を読んでみたら、、
いや〜素晴らし過ぎて、驚いた!
私がずっと人生の疑問だったことが解明されていて、本当にびっくり!!
読まれることを強くお勧め致します。。
映画とはまた別の深みがあって、とんでもなかった❗️
(元になっているのは一つではなく、複数のお話。その一つ一つにテーマがあって、組み合わさって今作ができています。やっぱり春樹、すごい!)
人生のバイブルになりました。。
あーさん

あーさん