NaitoMami

ドライブ・マイ・カーのNaitoMamiのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5
#ドライブマイカー #drivemycar
もう私の人生からはいなくなってしまった人たちの言葉を、いつまでも忘れらないことってある。
それがポジティブな言葉だったらいいんだけど、私の欠点をえぐるような、炙り出して踏みつけるような言葉って、それはもはや呪いのようであって、でもってその呪いを解く魔法の呪文は、私自身でしか見つけられず、私がじぶんの言葉で声に出す必要があるのだろうな、と思う。

古典のすごいところって、人生における汎用性の高さにこそあると思っていて、この作品でもまさにチェーホフのフレーズが、国も時代も性別も環境もまるで違う人々の心情にピタリと重なって、重低音で響き合うみたいな絶妙な効果を生み出している。
効果と言えば、多言語とか手話を、要素として取り入れる選択眼の鋭さよ。同じ日本語をしゃべっていても伝わらない、理解できない、ということは本当に多々あると身に染みて知っているからこそ、「言葉がわからなくても、声にならなくても、理解できる」そんな奇跡のようなモーメントを、きらりと輝かせる。

3時間という上映時間に慄きつつ観に行ったのだけど、まったくの杞憂でした。むしろ観終えたあとすぐに、もういちど最初から観たくなるほど。脚本賞でのカンヌ受賞に納得です。本当に脚本の勝利かと。構成とか表現とか(もすごいのですが)ではなく、細部への想像力と、それをあしらう際のさりげなさ。抑制されたリアルなバランス感。
シナリオも読んでみたら、意外と短くて、それにも驚いた。それだけ「間」が大切にされていたってことでもあるんだろうな、と。
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