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ドライブ・マイ・カーのkazataのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
5.0
上映時間の長さ問題からつい見るのを躊躇ってしまっていた本作が、「もしかしたら来年のアカデミー賞獲っちゃうかもよ…」ってぐらい海外で大絶賛されていることもあって、意を決して2021年の締めとしてウォッチ!

いや〜、控え目に言っても素晴らしかったです。
鑑賞後に慌てて原作も読んだけど、(自分はハルキストじゃないので)「映画の物語の方が素晴らしいじゃん!」とさえ思ってしまいました。
(冒頭から「棒読み演技の朗読劇みたい…」と思っていたら、その必然性が極めて高い=効果的なメタ展開に引き込まれました!)

それぞれに"喪失"を抱えた人物達が織りなす巧妙なアンサンブル、タルコフスキー監督作『ノスタルジア』に通じる「芸術の翻訳は可能か問題=言語や文化の異なる人同士が理解し合えるのか問題」への回答、あらゆる面での"ボーダレス"かつ"ダイバーシティ"が描かれる同時代性、カズオ・イシグロの小説『忘れられた巨人』よろしく「加害者意識=己の罪を忘れない姿勢」の重要さ、(濱口監督の過去作でもこだわって撮ってた気がする…)工場萌え要素、「ロードムービー要素=移動=心の迷い」からの「現実肯定&再生の物語」という感動展開……とにかく、映画としての強度がハンパなさすぎて震えました!

(個人的なベストシーンは西島さんが助手席に座るところ!「"座席移動=キャラ同士の距離感の変化"を描くのは今しかないっしょ!」なドンピシャなタイミングでそれがサラッと行われていて…ため息が出るほどシビれました!!)

(SAG=全米映画俳優組合賞で『パラサイト』以来のキャスト賞に輝いても全く不思議じゃない!…ってぐらい、欧米の役者の支持も高そう!)

『ノスタルジア』からの引用で恐縮ですが……
タルコフスキー監督が望んだけど叶わなかった「1+1=1」(=イデオロギーを超えた一つの世界)が、まさに本作で描かれたような価値観の中でなら実現可能であるということ、つまり「映画(含む芸術)ならその道を示すことができる」という希望が描かれていると思うので、現実世界に絶望しかけていた自分の気持ちも救われたのと同時に、「映画=フィクションの可能性を信じたい!」と改めて思うことができました。


……と言うわけで、今年もまた一年おつきあい頂き誠にありがとうございました!
皆様、良いお年をお迎えください!!
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