このレビューはネタバレを含みます
文句なし!
今まで見た作品で、ここまで尺を感じなかったものは無かったです。
ぐいぐい引き込むオープニングのシーン。計算されているんだろうけれど、ここが重要なとこなんだなと。
タイトルロールは正に、ドライブマイカーのシーンで!やられた。
今はもう無い、SAAB。うちの車もここのだった。あのマークが懐かしい。自身で車を運転する者として、家福の気持ち、車内の過ごし方に共感も。車というのは、外から見えるけど、乗っている方はプライベートな空間と思っているから。
声。言葉。発せられるもの。
真実とは。
家福の、高槻の、音の、みさきの。あなたの真実は彼の真実ではないってことだ。
音がとても危うい。きっと、娘を失ってから病を抱えてる。彼女が紡ぐ物語はきっと、セラピーでもあるけれど、自己破壊願望もある。そして人を巻き込む。巻き込んで相手を支配してるとも言えなくない?恐ろしいひとだ。それに、元女優だもの。
夫である家福は音のことを女神のように思っているようだ。うーん、信頼できないストーリーテラーでもあるかな。
誰もが持つ生きる上での苦しみ。それを昇華するためのそれぞれのイニシエーションとしての装置。ワーニャ伯父さん。
よりによってチェーホフ。いやー…。
冒頭から流れる戯曲のテキストがこの先を暗示していて鳥肌が立ちそうだった。そんな予測外れてよ、などと思ったりもしながら。だって、心が血を流すだろうから。
高槻の僕は空っぽなんですというセリフ。彼はもう、イニシエーションを完了していく道程だったんだだろうなぁと。そこの一連のシーンが素晴らしい!岡田くんが俳優になった!という感じがした。失礼ながら…。
家福は横顔のシーンで心を語る。ようにみえます、
多言語演劇で表す最後のセリフは手話。そこへ至るラストのシークエンスが素晴らしい。言葉を発さない女性により演じられる。それはまるで、慈愛の女神か、運命的の輪か。それが、誰でも同じさ。生きていくしか無いんだという、普遍の生きる意味なんて問うだけ無駄というか、それはひとの定めというか。そんな身も蓋もない真実を優しく突きつけてくれていた。でも、それは冷たいものではなく、包み込む温もりなのだ。だから、怖がらないで。あなたの苦しみを味わい尽くせとでも言われているのか。
あーもう、書ききれないくらいに好きな作品になりました。濱口さん、ありがとう。