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ドライブ・マイ・カーのNEWおっさんのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.5
「死人に口なし」

村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を「寝ても覚めても」の濱口竜介監督・脚本により映画化。第94回アカデミー賞では日本映画史上初となる作品賞にノミネートされたほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞とあわせて4部門でノミネートとなる快挙を達成。他にも数々の賞を受賞と、監督も一気に時の人になってしまったな。

叩かれるの覚悟で言うと、正直この作品の何が世界の人達にウケたのか分からん。いや、良い映画だとは思うんだよ。思うんだけどこれははっきり言って人を選ぶ映画だと思った。

まず尺が3時間あることに驚く。これも3時間があっという間か、長く感じるかは人それぞれ。自分は両方だな。半分過ぎたあたりからはあっという間だったけど、それまではやっぱり長く感じた。ただでさえ本読みの場面やドライブの場面が多い地味な作風で、派手さを求める人には向いてない。いやまあ派手さを求めてこれを見る人はいないと思うけど。

全体的に感じたことは、機微感情が優れているなあって点。ゆったりめの演出や展開なのに、見てて飽きないのはやっぱり役者陣が良い演技してるからか。色んな国の言葉、更には手話でしか話せない人までいて、そんな中の劇中劇も断片的でしかないが魅力的。

その感情の極め付けは多分見た人の大多数が思うであろう、岡田将生演じる高槻が車中で家福に語りかける長台詞のシーン。乱暴者で軽薄な男が告白して涙を流すこの場面は、ここ最近の邦画ではトップレベルの演技だと思った。久しぶりに息を飲んで観入ってしまった。

無愛想な運転手、みさきとのやり取りも良い。最初は会話もない2人だが、段々と打ち解けていき、実は家福と似たような境遇だと分かる。その時の家福の吐露には泣いた。まさかみさきの故郷にまで行くとは思わなかった。タイトルの由来はこっから来てるんだな。

あれ、やっぱり色々言ったけど基本的には良かったトコばっかり言ってるな。見てる間より見終わった後余韻に浸れる作品なんだろう。自分の現時点での評価はこれだが、2回3回、年取って見たらまた評価が変わるかも知れない、そんな映画。最初に何がウケたのか分からんとか言っておいてなんだが、ここまで感想書いてたらなんとなく分かって来たよ。この独特の空気感は唯一無二かも。

村上春樹作品の実写化では「ノルウェイの森」が思い浮かぶが、あれよりは全然分かりやすい。ロードムービー好きにも刺さるんじゃないかな。