CANACO

ドライブ・マイ・カーのCANACOのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

約3時間の村上春樹原作作品。歌のないチルハウス(ミュージック)のように起伏のない物語が淡々と続く。いかにも日本映画、いかにもカンヌ、受賞納得という内容。美しい瀬戸内の空気感とともに進行するこの物語を心地良く感じるか退屈と捉えるかは大きく分かれると思う。

アカデミー作品賞にノミネートされたことで注目されているが、「パラサイト」のようなわかりやすさは全くない。村上春樹だから。ポエティックでセックス描写が多く、主要人物は死と喪失についていつも考えている。心理の森に迷い込み、佇み、呟く。観る人をも悩ませる。かなり観る人を選ぶ。でも外国人は好きだと思う。村上春樹だから。

アカデミーっぽくないなと思ったけど、「ピアノ・レッスン」はパルム・ドールもアカデミー脚本賞もとっているので、どうだろう。

事前情報収集なしで見始め、開始2分で「こういうトーンか」と、残り2時間57分の旅をする覚悟を決めた。旅を終え、コミュニケーションをテーマにした監督の実験作のようだと思った。日本語、英語、韓国語、中国語、手話が入り混じるシーンが多く、棒読みに近い抑揚のない台詞回しが大半を占める。韓国人夫婦の家に招待されるシーンでは犬も出てくる。
そもそも男と女の物語、夫婦の物語で、ポエティックだが「そうするかもね」とオンナでもわかりみの行動をとるリアルさもある。
昔どこかの住職が「墓は他界した人のためにあるのではなく、残された人のためにある」と言ったのを覚えているが、この作品は、ある出来事を理由に、墓を立てず妻の「声」に依存して生きてしまった夫が、想定外の訪問者(ドライバー)との出会いを機に、心に墓を立てるまでの物語なんだと思った。車は夫にとって厳粛なプライベートルームで、運転を任されたドライバーは望まずしてカウンセラーの役割になる。

ドラマ王でもある西島秀俊さん、「運命じゃない人」の霧島れいかさん、2代目「なっちゃん」の三浦透子さん、そして悪い役も得意な岡田将生さん、みんなとてもよかった。お芝居がハイレベルで、誰も負けていなかった。村上春樹原作だがリアリティもあり、存在感の強さ、人間味の立体感・層の厚さに満足した。

今時そんなに吸う?ってくらい煙草を吸うシーンが多く、そこは不思議だった。嫌煙家じゃないのでかまわんよだけど。

誰にでも勧められる作品ではないので3.5。喪に服したい気分のときに観たら癒されるかもしれない。
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