馮美梅

ドライブ・マイ・カーの馮美梅のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.8
淡々とした物語の中にある登場人物それぞれの渇望と挫折と後悔と再生の物語。

それぞれ言いたいことはあるけれど、言ったら今の心地よい関係が崩れてしまいそうで見て見ないふりをしてしまったり、悲しみの感情を相手に知ってもらいたいのに言葉を飲み込み、遠回しにあぴーるしてもねえ…

でもそんな時、突然妻がくも膜下出血で他界してしまった。
亡くなる前、話があると言っていたことが一体何なのか?
聞きたかったけど聞きたくもない、その葛藤が結果的に妻を助けることが出来なかったと自分を責める主人公家福。

自分も目が悪くなり、車の運転が難しくなり、運転手を雇うことに。
寡黙な運転手みさき。何を考えているのか言葉も少なく、表情の変化もほとんどない。しかし運転技術はピカイチ。

主人公家福は俳優でもあり舞台演出家でもある、劇中印象的なのはやはり「ワーニャ叔父さん」彼の舞台はいろんな言語が入り混じったもので、この「ワーニャ叔父さん」もその1つ。日本語や中国語・韓国度など複数の言語が入り乱れているけれど、違和感なく物語は進んでいく。

出演者たちもいろんな思いを抱えている人たちがいる。
練習も佳境に入ったころ、出演者の1人高槻が暴行事件を起こし逮捕されてしまう。舞台は無事に開くことが出来るのか?高槻の役を家福にやってほしいと言われるが戸惑う家福。

考えるのに2日間の猶予をもらい、家福はみさきの故郷に連れて行ってほしいとお願いする。彼女の過去の母との生活、今はない家に行く事で何か自分に答えが出るんじゃないかと思う家福に、素直に受け入れるみさき。

しかし広島から北海道、車運転していくのって大変だよね~。
でもたどり着いた先に、妻が言いたかった言葉、そして自分が妻に言いたかった言葉、みさきにも同じように次の一歩を踏み出すためにはこの場にたどり着くことが必要だったのかもしれない。

だって残された人はこれからも生き続けなければいけない。死んだ人のことを思いながらもそれに縛られることなく、新しい人生の一歩を踏み出してもいいことなんだ。そう感じるようなエンディングでした。

彼らの悲喜交々を常に見ていたのはこの作品のもう1つの主人公でもある愛車サーブ900.どんな時も常に彼らに寄り添い続けたのですから。

しかし、まさに村上春樹の作品っていうのをこらでもかって見せつけられた作品でもありますので好き嫌いは分かれそうですね。
馮美梅

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