紫のみなと

ドライブ・マイ・カーの紫のみなとのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.7
村上春樹は10代から20代初めくらいまでは1番好きな作家と断定できるくらい好きでした。
歳をとるにつれ、だいぶ順位は落ちましたが、新作が出れば、文庫本になったくらいにやはり購入しています。
が、本作の原作は未見です。この映画の華々しいニュースは随分と日本中を駆け巡ったので、ちゃんと鑑賞しようと思って、レビュー等は一切読まず予備知識なしで観ました。

のっけから主人公の妻の語る「彼女は自分の分身を…」にああ、春樹…と思い、主人公のフライトがキャンセルされた時点ではい、妻が浮気ですか?、とまた春樹…でとにかく村上春樹ワールド満載のストーリーで、原作読まなくて良かったなあと思いました。

映画自体は、絶対つまらないと自分は思うだろうなと予想して構えていましたが、意外に引き込まれて長い尺もまったく気にならず。

西島秀俊は顔も声も肉体も非常に好みなのですが、俳優としては演ってはいけない役も多く悲しいかな見るに堪えない時も多いのですが、こだわりが強くて孤独な僕=春樹的主人公はうまく合っていました。妻役の霧島れいかさんはまあまあのお歳だろうに綺麗だなーと思って調べたら、「ノルウェイの森」にも出ているではありませんか!まさかレイコさん役?と思ったらやはりレイコさんだった!(この映画は公開当時観たけどレイコの記憶全くない、松山ケンイチも水原希子も印象薄く、直子役の菊地凛子の泣くシーンだけ覚えています)
2度も春樹の原作映画化に出演されるなんて、霧島さんの確率凄いですね。
岡田将生は全然好きになれない俳優でしたが、本作はなんだかすごくよかった!運転手の女の子も。
他の舞台劇を演じた役者さん達もそれぞれ味があって。複数の言語と手話、というアイディアが非常に冴えていました。

思えば自分がこの映画に引き込まれたのは主人公が広島に向かったこともひとつでした。(原作も広島なのかな⁇)
私事ですが、広島には自分の大切な人が住んでいるので、年に数回行くこともあるし、日本にとっても特別な県である「広島」の風景を眺めているだけで個人的な、特別な感情が湧き上がってしまいます。
主人公たちが屋外で稽古するシーンは、たぶん平和記念公園の中なんじゃないでしょうか? 平和公園は極めてうつくしく、そこに訪れた人に、温かいやさしさが投網のように投げかけられふりそそいでいるような場所なので、そこで繰り広げられる綺麗なアジア人女優ふたりの演技のかけあいもよかったです(演じていた2人の間に『今何かが起きていた。一切損なうことなくそれを劇場で起こす』と西島秀俊が言うのですが、←このセリフもいかにも春樹ですけど、それは平和公園がもたらしたマジックなのではと思いました)

村上春樹の小説は、特に近年の作品は起・承までは寝る間も惜しんで読みたいと思うほど面白いけど、転から失速し、結に至っては覚えてないという状況が個人的状況なんですが、映画化された本作では最後まで飽きることなく観れたので、むしろ原作読まなかったことがよかった。この問題の多い妻のキャラクターや妻の紡ぐストーリーにおける性描写なんかもいかにも春樹的で(そもそもこの夫婦の愛し合い方も)その時点でもういいです、となってしまいそう。
劇中のセリフも春樹すぎるので、生の人間が演じる映画の台詞としては違和感もありつつ、でもキャストが良かったからかな?もしくは原作が春樹だから仕方ない、と目を瞑った面もあったかとも思いますが、全体的にやはり好きでした。ラストは普通でしたけど…(じゃあなんのための2時間59分だったんだとも言えますが)
カンヌとアカデミー賞というあたりも、うーんそれなら日本映画の他にもあるんじゃないかとは思います。