プリオ

ドライブ・マイ・カーのプリオのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5
<鑑賞前> 
最近、村上春樹の本を読み始め、気になっていたので鑑賞した次第だ。しかし、村上春樹の映像化はあまりいい評判を聞かないので、そこまで期待はしていなかった。映画のパッケージ、「ドライブマイカー」というタイトルも特にそそらなかった。

<鑑賞後> 
結論から言うと、かなり胸をかき回すような傑作となっていた。一言でまとめると、辛い過去と今を生きる男の映画だ。
 
<よかった点> 
○西島秀俊の抑えた演技が素敵だった。コミカルで、わかりやすいオーバーな演技の印象が強かったが、今作では渋くて感情を押し堪えたリアルな演技が光る。哀愁溢れるイケおじが好きな人は必見であろう。人になかなか告白できない過去を背負って生きている男の、時折見せる笑顔には男でもキュンときた。この人には幸せになってほしいと思わずにはいられない。また、痛みを抑え込んで、いつ爆発するか見ている側もヒヤヒヤさせられた。 

○岡田将生も空っぽで、感情的な俳優役が似合っていた。自分をコントロールできていないことを家福に指摘され、図星なのか他人に当たるところは、非常にリアル。

今作のテーマの一つにコントロールがある気がした。車はコントロールして動く乗り物だ。「自分=マイカー」を他人に運転させるのは家福にとっては難しい。自分の乗り方があり、車にも癖があって、他人には簡単に乗りこなせないと言う。一方で、岡田演じる若手俳優は、すぐに女を車に乗せるタイプだ。ある意味、家福とは正反対の生き方だと言えよう。車に人を乗せることを拒む側と、すぐに乗せる側。二人の価値観のぶつかりあう場面は随所にあり、そこでの緊張感は静かだが並のホラー映画よりよっぽどハラハラする。 

○三浦透子ちゃんは、映画では初見だったが、死んだ魚のような目がよかった。彼女の仕事に対する姿勢は、現代人が忘れかけてる考え方かもしれないとも思った。できることをする、自分の仕事なんで、と冷静に語る感じは、とてまカッコよく映った。 

○「ドライブマイカー」というタイトルも見終わった後には、これ以上ないものだと思い知った。自分の人生を自分でコントロールしていこう、というのがこの映画、そしてタイトルに込められた意味だと思う。人生には、辛く忘れられない過去があるだろう。そんな時には寄り道してみることも大事なんだ。できたら、それは自分の知らないルートで、まだ行ったことのない場所の方がいいかもしれない。 

○ドライブシーンや演劇シーンが繰り返されて、派手さ皆無な映画だが、一つ一つのシーンやセリフに意味があり、何度か見返したいと思える映画だった。

○西島さんの感情爆発独白シーンは、全人類が必見かもしれない。私も男泣きしてしまった。

○主要キャスト以外の演者が一般人を使っているかのようなリアルさがあり、ドキュメンタリーのようだった。

○村上春樹の本は数冊しか読んだことはないが、彼の世界観を見事に再現できたのではないだろうか。

<悪かった点> 
悪かったというとより、少し気になった点は一つあった。岡田演じる若手俳優が空っぽなくせに、名言じみた長台詞があったところだ。そんなに急にカッコよく教訓じみたこと言えるのか、と少しツッコミたくなった。 

<どんな映画と似ているか>
感覚で言って申し訳ないが、「そこにのみ光輝く」と似ているような気がする。主人公が辛い過去を背負い、新しい土地にやってくる。そこで出会う女がきっかけで、新しい人生を歩み始めていく構造自体は似ている気がする。
プリオ

プリオ