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ドライブ・マイ・カーのKKのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.2
アマプラにて。

3時間。邦画にしては長いと思ったけど、最後まで集中力切れることなく観れた。てことは面白かったんだろう。

村上春樹原作。初めて村上春樹作品みたけど、ほかの作品とはやっぱり少し違う。

良くも悪くも、「起承転結」がハッキリしていない。多くの映画は、こういう出来事があって、主人公はこういう人間だから、こういう行動をして、最終的にこういう風にまとまるよね、みたいなプロット?がけっこうハッキリしてる気がする。
全てのシーンがラストシーンのためにある、みたいな感じ。

けどこの映画は、ラストシーンまでが1本の線で繋がってるわけじゃなく、枝葉のシーンがたくさんある気がした。

上手く言えないけど、回収されない伏線がたくさんある感じ?悪く言えば無駄があるってことなのかもしれないけど、それでも3時間があっという間に過ぎたってことは、そのシーンも含めて良かったってことかな。

小説原作だからなのか、村上春樹作品だからななのかは分からないけど、ほか邦画とはちょっと違うなって気がした。



※ネタバレあり
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ストーリーとしても、かなり好きだった。

妻に浮気されながらもその妻を愛するが故に本心を伝えりなかった家福さん。本心を言ったらそれまでの関係が崩れてしまうかもしれない。本心を伝えられないまま、行き場を失った感情は家福さんの深層に残り続ける。

「僕はもっと正しく傷つくべきだった」

日本人は感情を出すのが苦手な人が多いと言われるけど、悲しみや怒りの感情をちゃんと出さないと人生にずっとしこりが残ることになる。

自分も子供の頃、自分の気持ちをずっと抑圧してきた。当時の環境を考えると、自分の気持ちを正直に言うとかは絶対出来なかったけど、当時の辛い記憶を大人になってから「辛かったんだよね」ってちゃんと傷つくことは本当に大事だった。

だから、このセリフはけっこう刺さった。


もう1つめちゃくちゃ刺さったセリフがあって、みさきが自分の母親を見殺しにしてしまったと家福に話すシーン。

「僕が君の叔父さんなら抱きしめて言うだろう“お前は悪くない”と。でも君はお母さんを殺し、僕は妻を殺した」

最高にいいシーンだと思った。


「its not your fault(君は悪くない)」

大好きな映画『グッドウィルハンティング』でのセリフ。


人はみんな、自分ではどうすることも出来なかったことに責任を感じて苦しむ。
その罪悪感を「君のせいじゃない」と他人に言ってもらうことで救われる。


家福は、君は悪くない、そう言うことでみさきが救われることは分かってる。けど、自分がみさきにそれを言ってしまうと、自分が妻を失った罪も許すことになってしまう。家福はそれが許せなかった、し許してほしいとも思ってなかった。そして、みさきもそれを望んでいないことを分かっていた。
家福もみさきも、大事な人を見殺しにした、自分のせいで大事な人を失った、そう思ってる。その思いは2人にとってとても大事で、忘れてはいけない感情。
その罪を背負って生きていくことが、2人にとっては大切で、でも苦しくて。
同じ感情を共有したからこそのあのシーンは、本当に美しい。

村上春樹の原作の力なのか、俳優の力なのか、監督の演出の力なのか分からないけど、あのシーンが撮れるなら邦画もまだまだ捨てたもんじゃない。


他にも好きなシーンがいくつもあったので備忘録。

・外で稽古してる時に演技してる2人だけが別世界に入り込んだシーン
・運転が上手いと褒められて恥ずかしくなって犬に逃げたシーン
・「生きていれば23歳…」に反応した目のインサート
・後部座席に座ってたのに自然に助手席に移動したシーン

みさきと家福さんの微妙な距離感。自分の話をしていくうちにお互いの接し方がちょっとずつ変わっていく。繊細。

みさき役の三浦透子さん。めっちゃ好きになった。
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