てる

ドライブ・マイ・カーのてるのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.1
村上春樹の作品は苦手だ。
いまいち登場人物が何を考えているのかわからない。それに彼の文体が苦手なのだ。会話が妙であり、洋書を訳したような、妙な雰囲気がある。
今回の作品も村上春樹節が出ている。性にまつわる感覚や、色んな言語で演じられる多国籍舞台のようなおしゃれな雰囲気は村上春樹の作風を感じる。
だが、今作品は村上春樹らしからぬさっぱりとした終わり方だった。
どうもラストは原作と若干異なるそうだが、それが良い方向に働いたように感じる。
村上春樹の世界観をしっかりと継承しつつ、濱口監督ならではの持ち味をしっかり活かした作品なのではないだろうか。
もしかしたら、原作のファンにはその点でいまいちな評価を受けているのかもしれないが、村上春樹の作風が苦手な私としては、なんとも好ましい。
文学的な、小難しく、湿り気のある作風ではなく、大人の青春物語の、わかりやすく、さっぱりとした、心が明るくなるようなそんな作品に出来上がっている。
村上春樹のビターで湿り気のある作風の前半は観ていて心が苦しくなる。だが、その耐え難く、残酷な人間ドラマがあるからこそ後半の感動が大きくなる。
やはり、この作品は村上春樹の原作があってこそなんだなと感じた。数々の賞を受賞したのも頷ける。シナリオがいいと違うもんなんだなと思う。
あと、役者もよかった。西島秀俊はもちろん良かった。やはり、この人は影があるような役がはまっている。眉間に皺を寄せない役をこの人はやったことあるのだろうか。
しかし、三浦透子の存在感なくして、この作品は語れない。いやそりゃそうなんだけど。
特別すごい芝居をしているわけではないのだ。淡々と語っているだけなのに、その目の奥はいつも憂いに満ちていて、なにがしかの物語を感じる。
彼女も凄惨な過去を抱えている人物で、その背景を顔のよりの画だけで伝えることができるこの役者はいったい何者なのだろうと不思議でならなかった。特筆して美人でも可愛い訳でもなく、その辺にいそうな女の人なのに、その存在感たるや凄まじい。
もしかして韓国人なのかと思ったら列記とした日本人で、日本の役者の層ってのは知らないだけで分厚いんだなぁと改めて感心してしまった。
最後の表情は、まるで別人のようにとても爽やかで、この人はこんな表情も出来るんだと、改めて役者ってのは凄いと思わされた。
この女優さんの別の作品も観てみたいと心から思った。
てる

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