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ドライブ・マイ・カーのmofaのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【岡田将生が良かった】

村上春樹原作なので、どうせ難解で、フランス映画みたいな感じやろ(←偏見)
~と思っていたし、
海外で評価されているのも、
村上春樹は、海外で強いんだよね~(←思い込み)とか思ってました。

 まぁ・・・難解だとは思うけれど。
観終わった後感じたのは、意外なほどの爽快感と、
色々と生きていく事の難しさを、改めて考えさせられた次第です。

難解だと感じる最たる原因と思われた、演劇「ワーニャ叔父さん」
その練習風景や、車内で再生されるテープ。
退屈で飽きそうなのに、これまた、意外なほどに耳に心地よく、
映画の世界と演劇の世界が融合し、
音の台詞と、家福の台詞は、別れてもなお、
愛し合い、悲しみを抱き合っているような感覚がした。
 
感情の入らない台詞だけれど、家福を想い吹き込まれたのかと思うと、
彼女は、確かに、家福を愛していたし、
コントロール出来ない自分を、どれほど、責めたのかな・・・と思う。

音がそれほどに家福を愛しながら、
どうして、他の男性に抱かれる衝動を
抑えきれなかったのか。
それは、もう、どうしようもない喪失感と孤独感のせいだったんじゃないかな・・・・

みさきが「病気だと思えばいい」と言う。
それは、セックス依存症と言えるかも知れないが、
娘を失った喪失感が、彼女をそうさせたんじゃないかな。
 そして、その喪失感と孤独感を、誰も埋める事が出来なかった。
 家福でさえも、それが出来なかったし、
浮気を知ってからも、それを追求しないという行動は、彼女をより一層、
深みへと追い詰めたんじゃないだろうか。

とはいえ、家福が悪いという事ではなく、
男女の差・人間としての違いが、
完全に他人の孤独を晴らすことは出来なくて。
浮気を追求出来ない事もまた、
彼なりの愛であったはず。
 家福は、彼女が離れていくのを恐れて、
真実を問えなかった。
しかし、音は、追及して欲しかった。
そうしてこそ、音は、言い訳も出来るし、
自分がどれほどに病んでいるのかと吐き出せたはずだ。
 家福は音を責め立て、怒鳴りつけ、そして、
「愛している」と音を強く抱きしめるだろう。
 そうしてこそ、彼女は愛されているという実感を得る事が出来たのではないだろうか。

音は、高槻に物語の続きを語っていた。
自分の罪を追求されずに、
日常は静かに過ぎていく。
彼女が、高槻に吐露した心の内だった。

高槻は、家福に言う。
でもどれだけ理解し合っているはずの相手であれ、どれだけ愛し合っている相手であれ、
他人の心をそっくり覗き込むなんて、それはできない相談です。
そんなことを求めても自分がせつなくなるだけです。
しかしそれが自分自身の心であれば、努力さえすれば、
努力しただけしっかり覗き込むことができるはずです。
ですから結局のところ僕らがやらなくちゃならないのは、
自分の心と上手に正直に折り合いをつけていくことじゃないでしょうか。
本当に他人を見たいと望むなら、自分自身をまっすぐ見つめるしかないんです。

 家福は音を愛していたんだけど、きっとそれは、
心の奥底からの愛ではなかったと思う。
 彼女を失う恐れや、浮気を追求する事で、一見平和に思える日常が崩壊してしまう恐れ。
ひょっとしたら、男としてのプライドもあったかも知れない。
 様々な感情が、家福に自身の本心を見えなくしてしまっていた。

 映画序盤からの家福と音の関係は、作り物のように感じていた。
壊れ物のような、危うさを秘めた関係。
 互いに愛しているのに、
とても遠くの存在だった。
近くにいるのに、心は遠くにあった。
 そういった関係は、
確実に孤独を増長させるのだ。
 
家福は音を、みさきは母親を失い、ともに自責の念を抱いて生きていた。

互いに語り合う事で、自らの心の内を知り、
乗り越えていく様は、ワーニャとソーニャのラストシーンとリンクしていく。
 苦しくても、生きていく。
そして、死んだら、「苦しかった辛かった」と言えばいい。
 そんな風に、2人は再生していく。

ラストシーンは、とても印象的だった。
みさきは笑顔を見せ、異国の地にいた。
 自責の念を忘れないためにと手術しなかった傷は消えていた。
 
 苦しみを抱き続けても、人は生きていかなくてはならない。
悩み続けても、生きていかなくてはならない。
 その苦しみや悩みを抱いて生きていく。
 その現実を受け入れることで、
人は、解き放たれて、
生きていくのかも知れない。

 本当はもっと難しいメッセージがあるのかも知れないけど、
私には、これで十分だった(笑)・・・・
というか、限界(笑)
 
高槻が車内で長台詞を言うシーンは、本当に素晴らしかった。
岡田将生さんは「悪人」の時から、
凄い才能を感じて、
注目してましたが。
本当に、素晴らしい場面で、呼吸出来なかった。
 高槻の、どうにかして、家福に伝えたい・・・という強い気持ちを感じたね。
高槻は、音の才能・人柄を愛し尊敬していて、
彼女の苦悩を1番理解していた人物なのかも知れない。
 だからこそ、家福にそれを伝えたかったし、
ひょっとすると、彼女を理解しようとしない家福に、苛立ちを覚えていたのかも知れない。
 そういう、高槻の感情が、
ぎっしりと表情と言葉に詰まっていた。
ちょっと、鳥肌モンでしたよね。

 家福が、もっと単純な男で、
もっと自分の本心を晒す事を厭わなかったら。
きっと、家福と音は、ずっとずっと幸せだったかも知れない。
 そんな2人を想像するのが、難しくないのは、
西島さんと、霧島さんの演技あってこそだと思う。

 人の心ばかり考えて、
それはそれで正しいけれど。
それ以前に、自分の心と向き合うことを、
忘れてはいけない。
 そして、その作業は、難しくてもどかしい。
人の心も、自分の心も、
難しい。

そんな事を、強烈に思わせてくれた作品でした。
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