きりま

ドライブ・マイ・カーのきりまのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ドライブ・マイ・カー インターナショナル版

メキシコの友達に紹介された映画、まさかの邦画。
村上春樹原作の、エンドロール入れて3時間の大作。世界に誇れる日本映画というのは毎年そうそう生まれるほど多くない中で、この作品はそれと呼べるに値すると思った。
その要素には、映像の美しさと暗さ(黒=闇の作り方)、そして内容の重み(命や責任)とそれを伝えすぎないセリフ運びが揃ってこそだと思う。このあたりは韓国映画の良さとも重なる部分がこの作品にもあった。ただ大きな差別化点としては村上春樹の物語組み立てと言葉選び。ここでいう「言葉選び」というのは必ずしも何かを的確にあるいは美しく叙述することの上手さではない。一聞関係が無さそうな表現と表現の繋がりや意味合いを視聴者に想像させたり、返答がありそうな間合いに言葉を入れないことによってその余白に彼らの感情を想像させたりすることだ思う。だからこそいい映画の、登場人物同士の会話は"休符"が美しい。
舞台役者であり監督の家福(西島秀俊)は、同じく役者であり脚本家の音(霧島れいか)と結婚。愛し合っていた。家福は音の浮気を知り、耐え(←この言葉は浅はか)ながら黙認していた。そんな中「今夜話がある」と音から言われ家を出た家福。深夜に帰ると音がくも膜下で死んでいた。ここから物語が始まる。スタッフロールが流れる。音との思い出の車を軸に、そこから離れられないプライドの高い家福と、類稀なる運転技術を持ったミサキ(三浦透子)との出会い。彼女に心を開く家福と、音との密接な関係を露わにして家福に近づく不安定な存在の高槻(岡田将生)。彼の言葉には恐れがなく嘘がない。だからこその弱さがあり、吸収力に欠ける。役者としての原石のような魅力はもちろんあるけれど、家福はそれ以上の私的な興味で舞台のキャストに採用した部分があるだろう。
物語は音との思い出を紡ぎ合わせるように進んでいく。長い映画だが美しい言葉を感じながら飽きずに見れた。
最後、韓国でその車にはミサキと犬が笑顔(初めて見せる)で乗っている。ここまで描くのは予想外だった(もう少し手前で終わるかと思った)けれど、これも"描きすぎ"ではなくて、視聴者に考えさせる描き方だった。だからこそ賛否が分かれたり分からない人がいる終わり方で、それが芸術だと思う。
あっぱれ。
前日に偶然見た「MONDAYS」も繋がりがないと思いきや、劇中に文学作品が関係ありそうで無さそうであるように絡んでくるあたりが同じ。物語と物語が交錯する作品。
「生き残った者は、死んだ者のことを考え続ける。どんな形であれ、それがずっと続く。」家福悠介
2021★★★★★
きりま

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