小松屋たから

浜の朝日の嘘つきどもとの小松屋たからのレビュー・感想・評価

浜の朝日の嘘つきどもと(2021年製作の映画)
3.3
ミニシアターが好きだ、と言っても、個人のお客さんがその経営を救うことができるほど現実は甘くない。映画館の灯を消すな、と口では言っても、毎日、通っているわけでもない。クラウドファンディングも一時の流行りにすぎない。でも、町に映画館が一つあることで救われることもあるはずだ。

そんなお話のようなので、映画館好きな人間としては、絶対、泣けるだろうな、と思って観に行ったが、震災の話、コロナ禍、外国人労働者の話など、いくつかの現代的な社会問題を扱いつつ、撮り方や映像は20年ぐらい前の「若手監督の日本映画」で、正直、やや物足りなかった。

ルーズの2ショットの多さ、長回しの多用、観客が見たいものや表情の寄りのショットをあえて避けることを良しとしているカット割り、冗長なセリフとテンポの悪さは、何十年か前にPFF出身の若手監督たちに注目が集まり始めた頃の作品を見るようで、当時は、それが、「リアル」という感覚を受け手に与え、新鮮さを感じさせたが、それは、一部の監督にとっては、実は引き出しと経験の少なさの裏返しでもあって、その域を越え、世界中の映画の進化に反応することができた監督は今も活躍し、そうでなかった監督はずっと当時のまま足踏みをしている。本作は、お話があまりにも予定調和で昭和風なので、むしろ監督力が後退しているようにさえ感じてしまった。

日本を含む世界の「若手」監督は、今や、例え低予算であってももっと豊かな発想で映画というものを捉えているし、もし、この内容でこのテイストなのであれば、そもそもが、地方局の周年記念作品のようなので、しばらく劇場に足を運んでいない方々向けにテレビドラマで見せた方が良かった。そうすれば、ふと、久しく行ってなかった近所の映画館に行ってみるかと高齢層の気持ちを動かす効果はあっただろう。ミニシアターに今も足を運ぶお客さんは、年齢問わず、すでにもっと豊かな映像体験を重ねていると思う。

でも本作はテレビドラマで続きがあるみたいなので、それを観たらもっと感想は違ってくるのかもしれないです。

役者陣は好演。喬太郎師匠、最近、映画でも時折、お姿を拝見するようになって、落語好きとしては嬉しい限りだが、本作ではセリフを「言わされてる」感が強く少し残念。

で、余計な感想としては、この映画館、喬太郎師匠の独演会を連日開催した方がお客さんは絶えないのに、と思ってしまったのでした 笑