おなべ

浜の朝日の嘘つきどもとのおなべのレビュー・感想・評価

浜の朝日の嘘つきどもと(2021年製作の映画)
3.7
◉大学生の時に映画にハマり、3年半映画館でアルバイトをしながら様々な映画館巡りをしていた自分にとって、映画館はやっぱり特別な場所だと思い起こさせてくれた作品。

◉福島県にある歴史の古い小さな映画館「朝日座」。支配人の森田は、時代の遷移と共に動員が落ち込んだ朝日座の経営が難しいと判断し、映画館を閉館することに。その矢先、全力で閉館を阻止しようとする怪しげな女性が現れ…。

◉福島中央テレビ開局50周年記念作品。

◉《タナダユキ》監督・脚本作品。人気落語家の《柳家喬太郎》や、人気芸人コンビ〈オアシズ〉の《大久保佳代子》、若手実力派《高畑充希》という異色のコラボ共演。

◉主演の3人の掛け合いが見どころの1つ。程よくユーモアを交えつつ(これが地味に面白かった)、締めるところはしっかり締める。登場人物の役にハマった絶妙な配役。

◉近年、旧作映画を上映する単館の名画座やミニシアターの数が徐々に減りつつあるのは耳にしていた。もちろん、コロナの影響が大半。そんな中、映画文化を守ろうと、映画監督や著名人がミニシアター・エイド基金なるクラファンプロジェクトを立ち上げていた。開始3日で1億円の支援を受け、最終的に3億3千万のクラウドファンディングを達成。「小規模映画館の灯を消してなるものか」と、全国にいる映画ファンの熱烈な想いを実感し、胸が熱くなった。

◉映画館のニオイや展示物、名作映画のチラシやポスター、特徴的で年季の入った座席、独自の配給映画。それぞれの映画館にそれぞれの色があって、特別な映画体験を後押ししてくれる。小規模映画館は、多くの人に愛され、多くの想い出と記憶が詰まった特別な場所。

◉そんな、何十年と映画文化を支えてきた映画館でさえ、災害やコロナウイルスにより、やむを得ず閉館を余儀なくされる。本作では、そんな事があってはならないと、名画座を閉館の危機から救うため必死に奮闘する人々が描かれる。加えて、東北地方太平洋沖地震という大震災を経て、この土地で強く生きる福島の人々の想いが、全体を通して揺蕩う。
あの震災から10年経った今、福島で生きる人々の悩みや葛藤に触れながら、メインテーマである映画と映画館の魅力にアプローチしている。














【以下ネタバレ含む】











◉ 「映画じゃ人は救えねぇ。」

確かに、どんなに優れた映画でも、人の命を救うのは容易い事ではない。

「急に工事ストップしねぇかなぁ。」
「映画みたいにねぇ。」
「とか言ってたら、本当に…。」

でも、いつか映画みたいな奇跡が起こると信じれば、どんなに幸せで、どんなに力を貰えるか。
映画には人生を豊かにする力がある。生きる希望を与えてくれる。感動と興奮をくれる。一歩踏み出す勇気をくれる。厳しい現実を教えてくれる。価値観や視野を広げるための知識をくれる。正しい方向へと導いてくれる。幸せに生きるためのヒントをくれる。

とか言ってたら、本当に実現するのが映画の力。だから映画は素晴らしい…と、心底思わせてくれるのも、映画の魅力の1つなんだよね。

◉朝日座のように、他愛のない映画話をしながら、ゆる〜く映画館を運営するような、素敵な生活が理想的。
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