なべ

ヒッチャー ニューマスター版のなべのレビュー・感想・評価

4.3
 「ヒッチャーっておもしろい?」と平成生まれの友だちからLINEが来た。おもしろいよと答えたら「観る?」と聞かれてリバイバル上映されてることを知った。そんなの観るに決まってんじゃん!と、数十年ぶりにヒッチャー(ニューマスター版)を観てきた。

 いやあ、おもしろかった。激突!、ウエストワールド、ターミネーターの系譜を継ぐ付け回し映画の決定版。
 サイコなヒッチハイカーが殺戮を重ねながら主人公を追ってくる…以上。これ以上削りようのないシンプルな脚本がこの上なく美しい。登場人物は少ないし、ロケーションもほぼ道路。だけど、予算はなくともおもしろい映画はつくれるって気概に満ちてるんだよな。まあそれもこれも、ルトガー・ハウアーの神演技があってこそ。彼がこの映画をこのレベルまで引き上げたんだよね。
 キチガイと呼ぶにはあまりにも鋭敏な表情。神々しさ(地獄味か)さえ感じられる佇まい。あのじとっとした眼差しはどうだ⁉︎
 平成生まれの友だちは、BLの匂いをいち早く嗅ぎつけていたが、確かに今の文脈で観るとちょっとそれはあるんだよね。
 ジョン・ライダーはなぜジム・ハルジーを殺さず付け回すのかって問いかけに「そりゃ、横に乗った瞬間にジムを見初めちゃったから」と思わずBL的回答をしてしまったくらい。
 公開時はそんな読み解きができるほど、ぼくも社会も成熟してなかったが、今ならわかる。ジョン・ライダーは探していたのだと。自分を止める人間を。そしてついに見つけた。だからジョンはジムを誘なう。自分を止めるように仕向ける。ジョン・ライダーにとって殺人はジョンに向けた熱いメッセージなのだ。
 最初は巻き込まれ、翻弄されるがままだったジムだけど、物語が進むにつれ、子供から大人の顔つきに変わっていく。追手(=警察)をかわし、協力者を得て、ジムは成長する。最後にはジョンと同じ高みまで上り詰めてる。
 ジョンが逮捕されても、ただひとりジムだけは彼の逃走を信じて疑わない。追う側と追われる側ではあるものの、狂気を共有したジムだからこそわかり得る境地。
 会話などなくても互いに通じ合ってるといってもいい。
 「俺を止めろ」の約束を果たすべく、ジムはジョンの元へ急ぐ。警部に銃を向けてでも果たさねばならない約束。
 そう、これは愛の話なのだ。え?と思われるかもしれないが、愛と呼んでいいと思う。出会って、通じ合って、互いに約束を果たす。性愛ではないけど、かなりの高みにある愛。
 あのリボルバーの扱いさえままならなかったジムが、見事にショットガンをぶっ放すんだよ。大した成長じゃないか!
 観終わって拍手をしている観客が若干1名いたが、ぼくはそれどころじゃなかった。昭和の時代とは異なる見方ができて興奮してたから。よくできたB級映画だとは思っていたが、ここまで魂が込められていたとは気づいてなかった。ほんと映画って奥が深い。

 例によって商魂逞しいシネマート新宿では劇中シーンを再現した指入りのフライドポテトなる「指ポテト」が売られてた。ぼくは買わなかったが、この悪趣味をおいしく楽しめる方はぜひトライしてみて。
なべ

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