このレビューはネタバレを含みます
主人公の少年が可哀想すぎた。
少年が女性強盗犯に恋する様子は微笑ましかったけど、その結果がとても辛い。少年の恋心を、女性強盗犯が悪用したように見えた。
少年は、常に少年より一枚上手の女性強盗犯に洗脳されて不幸になった。
女性強盗犯は少年に、「自分を助けるのを頼んでない。この選択はあなたがしたのよ。」と言う。これも少年を女性強盗犯に繋ぎ止めることになってしまっている。
少年が抱えるいろんな要素がこの最悪の結末に向かってしまったように思う。
例えば、家族との不和による孤独感、女性への欲望、純粋な恋心、田舎が退屈で刺激を求める心、犯罪者の危険な魅力に吸い寄せられる心、など。
また田舎の狭い世界であまり選択肢のない少年には、「自分で選択する」こと自体がすごく嬉しかったろう。
女性強盗犯は少年に悪い、と本当に思ってるなら、かなりの勢いで少年を振り払ってもらいたかった。
愛の種類は違えど、少年は家族にも愛されていたように見えたのに。継父もしかり。
継父の息子への叱り方が思った以上に穏やかだった。でも少年の悪事を見過ごさず、しっかり叱ってはいた。そこにこの父の、息子への愛情を感じた。
偽名も使いこなせない、根本的に悪人になれない少年は取り返しのつかない罪を犯した。その後少年はどんな人生歩んだんだろう、と心が重苦しい。
ただ最後は女性強盗犯と少年、双方の間に熱い愛らしきものが生まれたようだ。
それとも犯罪者同士の共鳴か?それが実際どんな心なのか、外部からは推測し辛い。その心は何か尊いもののようにも思えた。
この人間ドラマを際立たせていた広大な荒地は、寂しげだが美しく。またかなりの田舎で、娯楽が少ないのもリアル。
時々血と肉を接写で見せてくる。かなり痛々しく見るのが辛かった。
一方、風景や空の映像には癒された。その画質は時々荒く、空中に舞う砂を表現したかのよう。
荒れ狂う砂嵐の光景は珍しくて、かなり迫力があった。ゴーグルとマスクはスチームパンクのファッションのようで、味が出ていた。
また継父が、異常な砂嵐のタイミングで外に出てしまったことで、観客は砂嵐の脅威を擬似的に体感できた。
犯罪シーンがあまり巧妙ではなく、少しトボけたような印象で、作品の独特な雰囲気を高めていた。
例えば、宴会で体を叩いてリズムを刻むお爺さんが出てくる。これは少年が警察資料を盗むハラハラとしたシーンの最中に登場する。
その警察の資料管理がいい加減すぎて拍子抜け。これだと改ざん・隠滅なんでもありだ。
さらには、この犯罪含め強盗時にも覆面を被らないのが不思議。ただそれにより観客は表情が見やすいから、ドラマチックさが増していた。
俳優の演技が巧みで、会話の一つ一つがスリリングだった。それに独特の風景やシーンの印象が混じり合い。終盤ギリギリまで着地点が読めず、作品に惹き込まれた。