ブラウンソースハンバーグ師匠

クラッシュ 4K無修正版のブラウンソースハンバーグ師匠のレビュー・感想・評価

クラッシュ 4K無修正版(1996年製作の映画)
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僕はペーパードライバーなのですが、昔は頑張ってドライブしてました。一度だけ、停車している車のケツに軽くこすってしまったことがありました。僕は頭が真っ白になりました。運転席からガテン系のお兄さんが出てきました。ぶちギレられるんだろうなとヒヤヒヤしました。でも、お兄さんはすごく優しかったんです。若気の至りかって感じで許してくれたんです。妙に、優しかったんです。この映画を観たときに思ったんです。今思えば、あの妙な優しさは、ケツをこすられて、オルガズムに達したからだったのかって。冗談です、ごめんなさい。あのときは優しくしてくれてありがとうございました。

そんなことより、この映画は変態である。作家に「変態」は誉め言葉であるが、そのベクトルではない変態である。

この映画には、異常性癖を咎める委員長的ポジションがいない。そういう「常識的」な社会との対比でハナから見せようとしていない。
まず、異常性癖を当時者同士の狭い世界で描かない。むしろ恥ずかしげもなく、オープンに展開していく。また、異常性癖は彷徨うこともなく、すぐに「クラッシュマニア」というコミュニティに社会的に容認されてしまう。
だから、この映画からは全体的に強い自己顕示欲を感じた。
(公衆の面前でヤる。オープンカーでのセックス。観客の前でのクラッシュパフォーマンス。その自動車事故についても「有名人」の性的エネルギーを再現しようとしている)

この映画に登場する車の扱われ方は、メタファーと言うにはあまりにも直接的だ。最早、人間と車の「ボディ」はほぼ同格に扱われている。
車同士の衝突はセックスの挿入っぽいし、後ろから車を小突くのはスパンキングっぽいし、人間と車の傷は同じように官能的に撮られ、洗車のシーンでは、車内で人間が前戯をしながら、機械洗浄のブラシが車のボディを舐め回しているように示唆されている。終盤で、妻の運転するロードスターが、血の涙を流している←これは意図的ではないかも……
反対に「オルガズム」を追求する人間は、夫婦や性別といった関係性を手続きなく超えていく(車にそういった関係性が無縁であるように)。死体のように転がる車の横で、オルガズムを感じなくなっていく人間は無機的な存在へ向かっていくようだ。それは、人間と車の立場が入れ替わってしまったような構図にすら見えた。
人間と車を共感的に見せることで、監督の得意とするグロテスクな視覚的表現が抑えられ、独特な上品さを醸し出していると感じた。

毎週、大量の新作が発売されるAVも、一本くらいはこういう格好いい路線を狙ってみてほしい。絶対売れないだろうから。