噛む力がまるでない

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたちの噛む力がまるでないのレビュー・感想・評価

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 ハリウッドで活躍するスタントウーマンの歴史と実態に迫るドキュメンタリーである。

 ベテランから若手までさまざまなスタントウーマンが登場し、現場での取り組みや苦労について話してくれているが、この映画が言ってるのはスタントパフォーマンスの世界には性差別と人種差別がまだまだはびこっているということで、かなり深刻なテーマを扱ったドキュメンタリーになっている。一つひとつの切り口はあまり深く掘り下げず、あくまでも業界の全体像をつかむくらいにとどめていて、物足りない気もするが、見やすくまとめることに振っていると思われる。

 長年苦しい状況が変わっていないというのはつらいことだが、それでも登場するスタントウーマンたちが誇りを持って楽しそうに仕事に取り組んでいる姿は応援したくなる。映画の歴史を追った同じようなドキュメンタリーだと『すばらしき映画音楽たち』があり、(作品の意図せざる批評性なのだが)あの映画でも男性中心的な映画音楽の世界が見えてくるところがあって、やはりハリウッドにおける男性や白人の権威というのは大変大きな問題なんだな……と思う。レジェンド級のスタントウーマンも何人か登場し、全員ものすごい苦労を語っているが、この映画の良いところは、若いスタントウーマンと対話させることでキャリアを越えた女性同士の連帯をさりげなく提示しているところだ。レジェンドたちのタフな精神を継承し、若い世代もまだまだ大変だとはいえそこには希望があると思う。

 全体的に良いドキュメンタリーなのだが、見ていてちょっと引っかかったのは字幕である。全員もれなく「だわ」とか「なのよ」とか、日本語字幕で女言葉の割合が高すぎるのはちょっといただけない。ジェンダーの観点を扱っている作品なのに安易につけすぎなのではと思った。