愛

栗の森のものがたりの愛のレビュー・感想・評価

栗の森のものがたり(2019年製作の映画)
4.1
冬の始まりを知らせる天使の調べを肺いっぱいに吸い込み、吐いた黄金の溜息は優しく川の水面を撫でる。
この寓話の中で、私は何役を買って出ようか。儚げな少女となって菩提樹の花弁の押し花で切手を作り、棺桶職人マリオに贈ろうか。あるいは醜い老婆となって旅道具としての絹を織り、栗売りマルタを見送ろうか。
待ち人の残像を重ね合う悲哀に満ちた眼差しが、白昼夢に溶ける。現実と幻想、生と死。狭間で微睡んでいると、いつか馬車が迎えにくる気がした。

おおよそ棺が入る程度の穴を掘り栗を敷き詰め、枯葉を被せ保存する強烈なファーストカットは埋葬を思わせる。敬愛と憂いを含む忘れ去られた土地へのメタファーだろうか。
聖書を片手に光を操るレンブラントのような陰影深い映像美に、時の流れが変わる。
この美しい映像を「シネコヤ」という映画館で鑑賞できたことが今年一番の歓びかもしれない。
愛