砂場

果てしなき情熱の砂場のレビュー・感想・評価

果てしなき情熱(1949年製作の映画)
4.9
笠置シヅ子のブギウギをはじめとしてステージシーンは素晴らしい
一方で昭和歌謡版「アマデウス」のような、、作曲家の苦悩と退廃
とにかく暗い異形のミュージカル
まずはあらすじから



ーーーあらすじーーー
■何をなさるの、、男は薬で自殺しようとしている、、なぜ、どうして
どして、、君には分からないよ
僕はいつも何かに憧れていた、幻を追いかけて、大陸にも行ったが、
しかし何もない、、
■3年前のこと
ステージでは美しき歌手(山口淑子)「蘇州夜曲」🎵
作曲家三木竜太郎(堀雄二)の曲だ、ホールのスタッフも聞き入っている
コックの砂堂(斎藤達雄)、石狩しん(月丘千秋)はあの歌好きですわ
竜太郎は幼馴染の歌手雨宮福子(笠置シヅ子)のところに転がり込んでいた
■(寂しかった、どこか遠くへ、、信州の名も知らぬ小さな駅に降りた、、)
竜太郎は湖で溺れた犬を助ける、テリア、美しい女(折原啓子)に礼を言われる、互いに名前も知らぬまま去った
■キャバレーが経営難に陥り、スタッフのクビ切りが始まった
■竜太郎はこのレコードはなんだ、俺の曲だぞ!関係あらへん
家賃を払えない竜太郎、この楽譜で、ギター弦が切れた
みんな僕の曲を壊してしまう
■石狩しん(月丘千秋)は、私三木さんの歌好きですと言ってくれた
しんの母(清川虹子)はお金がなく娘にせびっている
■おでん屋で、クビになったスタッフが飲んでいる、困っている
砂堂に札束で金をあげる三木、曲の収入が入ったのだ
■泥酔して道路に寝ているとあの湖の女性の悲鳴、竜太郎は女性を襲おうとしている男と揉みあいになり、男の取り出したナイフで逆に刺し殺してしまう。一年の刑期、孤独だった、1年後出所出迎えたのはしん一人で
その日は朝から刑務所の外で待っていた、砂堂さんはおでん屋を始めました、あなたの部屋を借りてました、すみません、母が男を連れ込み
しんの居場所がなかったのだ
荷物をまとめているしん、ここにいたまえ、結婚しよう、どうして、あたしなんかと、、君をあてのない街の中に追い出すことができようか
結婚式は明日だ
■三木がしんちゃんと結婚するということでホールでは話題に、福子はそらめでたいと喜ぶ
しかしささやかな結婚パーティーに竜太郎は来なかった、
■駅のベンチに座る竜太郎、あの時の女がいた、、湖で、覚えてらっしゃる?主人も犬が好きで、主人、、、結婚していたのだった
家に帰る竜太郎、心配するしんに触るな、、触らないでくれ、、突っ伏す
結婚はやめだ!
それを聞いた福子は竜太郎に怒る、エゴイスト、、お前に言っても分からん、あんたは結婚したんやで、、うちいうことないわ!
■(しんに本当のことを言え、僕は救われたい、、お前はしんを愛したいのか、夢を捨てろ、歌がある)
働きに出してください、というしん
母は三木って「夜のプラットフォーム」売れてるじゃないか、金がないことはない、なんであんたが働くのかと娘に言う、酒に溺れる竜太郎
■ステージでは「夜のプラットフォーム」🎵、竜太郎はそれを見て頭抱え込む、、頭が、、やめろ!!!やめてくれ!!
歌を止めようとする、気でも狂ったんですか、、、出てけ!!
放り出された竜太郎をしんは連れ帰る、泣くな、君の泣き顔は嫌いだ
ポスターの裏に作曲を、、キャバレーに戻り、ドラムを叩きながら、これが歌だ!歌だ!バンド仲間は、どこまでしんチャンを苦しめるのかと詰め寄る
■福子には子供がいた、未婚の母、
三木が帰ってこないんで、、別れようと思う、、わたしが気に入らないんだわ、終止符を打つわ、、
■竜太郎はあの人の生活を垣間見る、、小田切邸、こっそり室内を覗くと
横たわる女、死んでいた。大雨の中歩く竜太郎
淡谷のり子「雨のブルース」🎵



<💢以下ネタバレあり💢>
■しんは行方不明の竜太郎を探す
部屋で薬を多量に飲んで自殺しようとしていた、死なしてくれ、、君には分からない、俺はわがままな男だ
ある人を思っていた、、僕の名前もしら知らない、死んでいた、、恋とも言えないだろう、でも忘れることができない
歌はあなたを忘れないわ、、愛してくださいともいいません、生きていてください、おそばにおることは許してください
副子「ブギウギ娘」🎵
どこにいらっしゃるの、一人にしてくれ、、大雨の中出て行く、
■海、譜面が砂浜に散乱、倒れこむ竜太郎
向こうの空が少し明るい
ーーーあらすじ終わりーーー


🎥🎥🎥
本物の人気歌手が何人も登場するミュージカル映画で、エディット・ピアフが出演するルノワールの大傑作「フレンチカンカン」みたいな感じと言えるが、「フレンチカンカン」がエネルギッシュでめちゃめちゃ楽しい映画なのに比べると、この「果てしなき情熱」のとんでもない暗さが際立つ。
同時代の邦画でも「カルメン故郷に帰る」のスコーンとした明るさと比べても、本作のダークさはやはり突出している。

歌の場面は素晴らしい、笠置シヅ子、山口淑子、淡谷のり子が当時のポップスを歌い、さすがレベルが高い。
特に笠置シヅ子は女優としても上手いし、日本人離れしたリズム感は規格外の天才である。笠置シヅ子が登場すると映画の雰囲気がパッと明るくなる。

それにしても主人公の三木竜太郎のダウナーぶりは映画を見ていて戸惑うくらいである。
竜太郎を一途に愛する石狩しん(月丘千秋)に対し、自分の結婚式には来ないわ、怒鳴りつけるわかなりのクズ。
夢か現実かわからない謎の女の影を追って精神が崩壊してゆく。
そんな竜太郎をそれでも支えるしん
謎の女の場面などアングラ映画のような趣もある。当時の観客は笠置シヅ子がブギウギ歌う映画だわーい、と見にいってこれではネガな衝撃を受けたのではないか。
普通のミュージカルと思って「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を見にいったみたいな、、、

ただこれは見る側も勝手に主題設定をしてそれとのギャップに違和感を覚えるのであり、初めからこの映画のモードを正しく理解していればかなりの傑作とも思える。
この映画はそもそも作曲家の精神の崩壊をテーマにしたシリアスな作品なのだ。ちょうど「アマデウス」のようなもんだと思う。謎の女がサリエリであり、サリエリの導きで精神が崩壊してゆくモーツァルトのように竜太郎の精神は壊れてゆく。
ミュージカルや音楽映画としてはありえないことに、作曲家竜太郎自らが「夜のプラットフォーム」のいいムードのステージをぶち壊す。
竜太郎は何度か自分の曲を他人が勝手に壊すと文句を言っている通り、彼の脳内では完全なる音楽が鳴っており、どんな歌手やバンドもその完全さには到達できないのだ。

これは完全なる”純粋音楽”の映画であるとも言えるし、普通の音楽を否定する”反音楽”の映画とも言える。
市川崑がどのようなやりとりで服部良一と作り上げたのか知らないが、とてつもない怪作である。
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