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いつか、どこかでのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

いつか、どこかで(2019年製作の映画)
4.2
放浪映画人・林家威リム・カーワイのバルカン半島譚2本目。ユーロライブの先行上映会でいち早く。今回はミス・マカオの女優を招いて、ドリフター的演出の中にストーリーを込めている。
キーになるのはザグレブの「別れの美術館」。ここがあるからこそ、彼女のバルカン半島での旅が「ただの放浪では無い」と定義される。映画放浪人を標榜しながら、ただ単に気ままに放浪してるわけではない。何かを探しているのだ。映画放浪人の旅路はごく自然に、彼女の旅路を生んでいく。
そこにあるのは放浪とは真逆にも思えるストイシズム。旅の一日をまるで棒に振ろうが、退屈さに疲れ果てようが、彼女はヤケにならず、すぐに故国にも戻らず、旅を続けてゆく。
リム監督の目線は、今回もひたすらに緩く優しい。全てに等距離で、全てに深入りせず、それは主人公のアデラに対してさえも例外ではない。監督自身で生み出したはずなのに、監督は彼女が流れるままに後を追うようにして物語を紡いでいく。
出演者に演技をつけず、ただ「演らせる」。それを追って撮る。今回もリム監督の独特な人徳と手腕が冴える。スクリーン上の彼女たちの振る舞いはきっと、監督どころか彼女たち自身の予測も大きく外しているのだ。
旅をしながら、その旅で出会った人、直面したトラブル、それらを取り込みつつ、リアリティショーでない、核のあるフィクションに仕立て上げる。並の「いい加減さ」でやれる話では無い。「しょうがねえ、リムさんが言ってるんだから、やるか」という仲間がどれだけたくさんいるんだろう。前回に引き続き今回も羨ましい限りだ。
前回の「ここではない、どこでもない」で印象的だった「水」の光景が今回も。本当に旅に出たい!退屈な一人旅がいかに豊かなことだったのか。コロナ禍で閉じ込められていると痛感する。そんな淡々とした旅の擬似体験にも、この映画はオススメだ。
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