ヴェルヴェっちょ

冷血のヴェルヴェっちょのネタバレレビュー・内容・結末

冷血(1967年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

原作はトルーマン・カポーティの同名小説(1966)で、彼は同作を「ノンフィクション・ノベル」と呼んでいます。その特徴は、実際の事件の関係者にインタビューすることによって、事件の発生から加害者の逮捕、刑の執行に至る過程を再現し、著者自身は作中に登場しないところにあります。
本作はカポーティの原作を忠実に映像化した作品とされていますが、あらすじはシンプルなものの、その内奥を理解するのは難しく、原作にも当たった方がよさそうです。

1959年11月16日、カンザス州のとある寒村で、農場主のクラター一家4人が惨殺されているのが発見される。農場主はのどを掻き切られた上に、至近距離から散弾銃で撃たれ、彼の家族はみな、手足を紐で縛られた上にやはり至近距離から散弾銃で撃たれていた。あまりにもむごい死体の様子は、まるで犯人が被害者に対して強い憎悪を抱いているかのようであった。
しかし、被害者の農場主クラター氏は勤勉かつ誠実な人柄として知られ、周辺住民とのトラブルも存在しなかった。農場主の家族もまた愛すべき人々であり、一家を恨む人間は周辺に一人もいなかった。 事件の捜査を担当したカンザス州捜査局のアルヴィン・デューイー捜査官らは、強盗の仕業である可能性も視野に入れるが、被害者には性的暴行を受けた痕がなく、金品も殆ど奪われていないなど、強盗の仕業にしては不自然な点が多かった。
デューイー捜査官たちは、事件解決の糸口が掴めず、苦悩する。しかし、靴跡の合致など犯人を特定するのに有力な情報が得られたのをきっかけに、捜査は急速に進展し、加害者ペリー・スミス(ロバート・ブレイク)とディック・ヒコック(スコット・ウィルソン)の2名を逮捕することに成功する。
そして、加害者2名は捜査官に対して、この不可解な事件の真相と自らの生い立ちを語り始めた…。

この凄惨な殺人が「金銭目当ての」犯行と評議されていることが描かれています。一方、実際に犯人たちが当てにした金庫は見つかっておらず、犯行を再現したシーンでも、金庫の在り処を聞き出そうと家人たちを縛り上げた犯人たちが、なぜか唐突に被害者ののどを掻き切って銃殺する様子が描かれており、結局のところなぜ一家4人を殺したのかは判然としません。
この「不可解さ」が、本作が提起する問題に他ならないと思います。「冷血」な殺人犯による、残虐な犯行と断じれば、それは自分とは住む世界の違う「狂人」の犯行として理解を放棄していることになりますし、かといって生い立ちや境遇・性格などに理由を求めることにも無理がある。「動機なき殺人」と見たところで、ではどうやってそれを防止していくのかということにつなげられない。
ペリーとディック。2人の加害者が犯行に至る過程はどこまでも「軽薄」であって、「カンザスの農場主の家に大金があるらしい」というホラ話に乗ったということ以上のものが出てきません。なぜ初対面の一家4人を惨殺したのか、掘っても掘っても一向に深層が見えてこない奇妙さ。
安易な結論付けを避け、この「不可解さ」に向き合い続けるという意味で、重い問いを投げかける一本でした。