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フィールズ・グッド・マンのtakatoのレビュー・感想・評価

フィールズ・グッド・マン(2020年製作の映画)
4.3
 トランプ支持者が発生した政治的、社会的な背景に関してはマル激で宮台さんが仰っていたが、それがネットミームという形で爆発してトランプ当選の一助になっていたとは知らなった。詳しくはネタバレになるが、本作で連想したのは逆「シュガーマン」であり、「ビッグリボウスキ」だった。


 「シュガーマン」においては自分とは関係ない形で自分の作品が希望の象徴になった物語だが、本作は正にその反転版だと言いたい。2ちゃんのミームとしてニートたちのネタだった内はまだ良かったが、それがインスタ映え狙いのリア充に利用されてルサンチマンが爆発した。これが日本ならまだシャレで済んだろうが、銃と暴力の空気が行き渡っているアメリカではシャレでは済まない事態に…。


 そしてその様々なルサンチマンを束ねる存在としてトランプ=ペペとなり、ネットミームが現実を変えた、そしてトランプならクソッタレな現実を壊してくれるとなり、彼自身が積極的に鼓吹しなくても暴力と差別をイデオロギーの元に黙認されるという恐るべき事態へと至ってしまった。そして、皆さんご存知の最悪の事件へと加速していく…。本当にトランプが4年間も政権を担っていたなんて、ほんの最近の事なのに信じがたい話だった…。


 そんな話だから本作は辛い内容か?というとそれだけじゃない。それが「ビッグリボウスキ」を思わせる要素だ。作者のマッドフューリー氏はフューリーなんて名字の割には実に穏やかで、まさに「フィールズ・グッド・メン」な男なのだ。


 彼は正直冴えない漫画家で、20代もノラクラ、今でもノラクラと日々を創作でなんとか過ごしている状態である。ならば彼は社会の負け犬で悲惨な人生なのかというとトンデモナイ!。彼の周りには愉快な仲間、素敵なパートナー、天使のような娘さん、なによりぺぺという親友を産み出したクリエイティブさが輝いている。


 「ビッグリボウスキ」と同じで、社会の多くはアホとバカで出来ている。自分たちの境遇に開き直ってリア充を呪うばかりの4ちゃんの住人、彼等を負け犬呼ばわりしてイイネ欲しさにぺぺを利用するインスタグラマー、仮想通貨レアペペで億万長者になったトレーダー、トランプ当選に向けてヘイトとデマを拡散するデマゴーグ、そしてそれらの負の感情の頂点にいるトランプ。どいつこいつも、自分だけの損得やヘイトに振り回されてとても満ち足りた幸福を持っているようには見えない。なにより彼等は何も産み出さない、ただ壊すばかりだ。


 そんな社会の中の風潮と関係なしに、ノラクラしながらでも「フィールズ・グッド・メン」な精神を持って仲間や家族と大切な時間を刻みながら創作に生きるマットさんの生き方のが遥かにマシでビッグリボウスキに見えてくる(デュード程は酷くないがね)。


 無茶苦茶だったこの物語も最期は曙光が差し込んで終わる。それはトランプ政権の終焉と被るが、この一筋の光を大きくできるかどうかは、「フィールズ・グッド・メン」な精神次第かもしれない。そんなムキにならないでさぁ〜、まぁこいつでも一服してキメれば?、「フィールズ・グッド・メン」。
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