とらキチ

フィールズ・グッド・マンのとらキチのレビュー・感想・評価

フィールズ・グッド・マン(2020年製作の映画)
4.5
覆水盆に返らず。
現代のネット社会、現代のアメリカ社会を知る上で非常に有用な作品。
元々アンダーグラウンドな同人誌で描かれていた、作者自身を投影したともいえるカエルのキャラクター「ペペ」。作者はその作品を自分のサイト、ネットに上げたところ、著作権的な処理をしていなかったこともあり、知らない所で知らない人達に勝手にコピーされ"ネットミーム"として拡散されていく。初めは非モテのニート、続いて若い女性達に消費され、やがてアメリカの匿名掲示板「4chan」でオルタナ右翼達が人種差別的なイメージと共に大拡散。ついにはドナルド・トランプを模したぺぺが登場し、それを本人がリツイート。本人公認の存在となり、挙げ句にはADL(名誉毀損防止同盟)からヘイトシンボルとして認定されてしまう。
ここに至りやっと作者も重い腰を上げ、ぺぺを取り戻す為に動きだす。
作者であるマット・フューリーの認識の甘さが印象に残った。拡散され出した早い段階から仲間からは「訴えろ」と助言されていたのに「彼らの創作」として尊重し、この状況を放置し続けていた。
覆水盆に返らず。
そうしているうちにぺぺの本来のチルでハッピーなキャラは忘れられ、凶暴化し、ヘイトの象徴として完全に乗っ取られてしまったのだ。途中、登場する自称「4ちゃんねらー」の引きこもりが自分の責任を一切感じる事なく、嬉々としてインタビューを受け、まるで他人事のように語っている姿が本当に恐ろしい。自分自身もぺぺとマットを貶めて混乱を招いた一因だというのに!特にネット上のヘイトスピーチについてとても卑怯だなと思うのが、匿名を盾にジョークを装いながら差別的なデマや陰謀論を発信し続ける事。全てのネット、SNS上の誹謗中傷に共通することだろう。
作品はぺぺが香港の民主化運動のシンボルになったという事で多少の救いを見せて終わるが、ぺぺの不幸は終わらない。残念ながら2021年1月6日のアメリカ連邦議会襲撃事件で、そこに参加していた多くのトランプ支持者がぺぺのTシャツを着ていたのだ。
また今作では「アメリカを代表する陰謀論者」「現代アメリカで最も多作な陰謀論者」と評され、陰謀論や偽ニュースを取り扱うウェブサイト『インフォウォーズ』や『ニュースウォーズ』『プリズンプラネット』を運営する極右ラジオ番組司会者アレックス・ジョーンズが登場している。彼こそ現代アメリカのデタラメさを象徴する存在だと言えるので、その姿を観れるのは貴重だと思う。チラシでは訴えられるリスクを恐れたのかシルエットとなってしまっている。
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