サマセット7

ブレット・トレインのサマセット7のレビュー・感想・評価

ブレット・トレイン(2022年製作の映画)
3.9
監督は「アトミックブロンド」「デッドプール2」のデヴィッド・リーチ。
主演は「セブン」「ファイトクラブ」のブラッド・ピット。
原作は、伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」。

[あらすじ]
休業明けの殺し屋「レディバグ」(ブラッド・ピット)は、東京発の高速列車に乗り込み、ブリーフケースを盗み出して、品川で降りる、という簡単な仕事を引き受ける。
しかし、彼は、「世界で最も運が悪い」殺し屋だった!!!
首尾よく車内でブリーフケースを手にしたものの、品川でメキシコ人の殺し屋「ウルフ」(バッド・バニー)に襲われ、降車出来ず!!
そうこうしている内に、ブリーフケースと要人の警護を請け負っていた「双子」と呼ばれる凄腕の殺し屋コンビ「レモン」(ブライアン・タイリー・ヘンリー)と「みかん」(アーロン・テイラー・ジョンソン)がブリーフケースの紛失に気付き、車内を探し始める!!
一方、子を意識不明の重体にされた男「木村」(アンドリュー・コージ)は復讐のため、情報を得て同じ列車に乗り込むが、そこで少女(ジョーイ・キング)と出会い…。

[情報]
日本の人気小説家、伊坂幸太郎のヒット小説「マリアビートル」を、ハリウッドが映画化した作品。

伊坂幸太郎は、2000年にデビューし、柴田錬三郎賞や本屋大賞、山本周五郎賞などを受賞し、ミステリー小説のランキングなどでしばしば上位に選出されているミステリー作家(直木賞は4年連続で候補になった後、選考対象となることを辞退)。
著作は日本でベストセラーになっているほか、アジア圏中心に国際的に広く翻訳、刊行されている(英語訳が確認できるのは「ゴールデンスランバー」と「マリアビートル」)。

今作の原作小説「マリアビートル」は、伊坂幸太郎のいわゆる「殺し屋」シリーズの第二作目。
様々な能力をもつ殺し屋たちが入り乱れ、やがて思いもしない真相が浮かび上がる、といった作風の人気シリーズである(現在までに三作刊行)。
原作小説は第1作「グラスホッパー」と世界観を共通しており、言及や共通するキャラクターもあるが、基本的に独立した話である。

今作の監督デヴィッド・リーチは、スタントマン、スタンドコーディネーター出身の映画監督である。
「ジョン・ウィック」の共同監督(クレジットはされていない)で名を上げ、「アトミック・ブロンド」「デッドプール2」といったアクション映画で、実績を残した。
スタントマン出身者ならではの、本格的かつリアルなアクション描写を得意とする。

今作は、原作をかなり大きくアレンジしており、登場人物の多くを外国人とし、舞台を東北新幹線から、東京・京都間の架空の高速列車に変更している。
登場人物を外国人とした点は、原作者の伊坂幸太郎の「せっかくハリウッド映画にするなら、日本人キャストにこだわらなくて良い」という意向によるもの、と報道されている。
一方、舞台を日本としたのは、製作側の強い要請によるもののようである。

今作は、アメリカでは2022年8月5日に公開された。日本では同年9月1日公開。
本日は日本での公開翌日である。
8500万ドル超の製作費で作られ、9月2日現時点で1億7000万ドルを超える興収を上げている。公開1ヶ月の成績としてはまあまあといったところだろうか。

今作はいわゆる頭空っぽにして楽しめるアクション・コメディ映画である。
一般層からは、ジャンルの割引があるとは言え、一定の支持を集めている。
他方、批評家の意見は割れているようである。

今作は、原作の日本人の登場人物の多くの出自が改変され、日本人以外の俳優が演じており、ホワイトウォッシングとの批判を受けている。
批評家の評価にもその影響があるのかもしれない。
ただ、これは前述の通り、原作者の意向であり、多分だが多くの日本人にとってはどうでもいい部分ではないかと思う。

むしろ日本人にとっては、作中の「ハリウッド風」日本描写の方が気になるかもしれない。
ただ、今作の日本描写は、明らかに故意に誇張して表現された確信犯的なものである。
誇張も含めて楽しむのが吉だろう。

[見どころ]
テンポの良いアクション描写!!
伊坂幸太郎原作の魅力を思い出させる、台詞の面白さと伏線回収!!そして、キャラクターの魅力!!
変な殺し屋勢揃い!!
誇張された日本描写のオモシロさ!!
ブラッド・ピット!!
真田広之!!!

[感想]
想像以上に楽しんだ!!

伊坂幸太郎の熱心な読者、とまでは言えないが、マリアビートルを含む殺し屋シリーズやゴールデンスランバーは既読。
ハリウッド映画化、ブラッド・ピット主演、デヴィッド・リーチ監督と聞いて、楽しみにしていた。
日本が誇るアクション・スター、真田広之も出演と聞いて、さらに期待は高まったが、期待通りの出来!!と言っていいだろう。

もともと原作自体、コメディ寄りのエンタメ小説で、伊坂幸太郎のストーリーテリング力と伏線回収で読ませる、どちらかというとライトな小説。
間違っても、肩肘張って読むような話ではない。

今作は、原作の魅力のコアな部分を残しつつ、本格的な列車・アクション映画に落とし込んでいて、良く出来た映画化になっていると思った。
原作ファンも、楽しめるのではないか。

キャストでは、とぼけた主役の殺し屋を演じたブラッド・ピット、もう一方の主役コンビと言うべき、ミカンとレモンを演じたブライアン・タイリー・ヘンリー(エターナルズ!)とアーロン・テイラー・ジョンソン(キック・アス!)が良かった。

原作から性別と人種を改変した「王子」役のジョーイ・キングも悪くはなかった。
智謀を弄するタイプの役なので、アクション映画の今作では若干割を食ってた感はあるかも知れないが、キャラを理解した演技は悪くなかったと思う。

全編にわたるアクションのキレはさすがスタントマン出身のデヴィッド・リーチ演出。
ブラッド・ピット、まだこんなに動けるの!?
と嬉しくなる。

日本人キャストは、真田広之(ラストサムライ、モータルコンバット、邦画では多数)、福原かれん(海外ドラマ「ザ・ボーイズ」)、マシ・オカ(海外ドラマHEROES、本名岡政偉さん)。
日系キャストに、日系イギリス人のアンドリュー小路(GIジョーなど)を起用。
それぞれ悪くなかった。

真田広之に関しては、出て来るだけで感動が半端ない。
出番は多くないものの、さすがのサムライ・アクションを魅せる。当年61歳!!!
アクションが出来る年齢のうちに、ハリウッドで主役級のもっと良い役をやってくれないものか!!!
海外にもファンが多いと思うのだが!!

日本描写に関しては、いわゆるハリウッド的架空の「ジャパン」なのだが、これくらい突き抜けてくれると、逆に好ましい。
雑兵を除き、メインの敵役に日本人がキャスティングされていない、というのも精神衛生上いいのかもしれない。
高機能トイレいじりとか、会話禁止の車両とか、キャラクターの着ぐるみとか、日本文化いじりも嫌味なく楽しめた。
この辺りはおそらく監督はじめ製作側の趣味で、一定のリスペクトを感じるからだろうか。

総じて、傑作、名作と持ち上げる気はないが、気楽に楽しめる、娯楽アクション映画に仕上がっている。
こういう映画、案外貴重ではないかと思う。

[テーマ考]
ジャンル映画、特にアクション映画にテーマを語る愚は百も承知の上で、あえて考えると、作中しばしば言及される「因果応報」が一つのテーマかと思う。
殺し屋だらけの作品の中で、「筋」を通したのは誰で、道を踏み外したのは誰なのか。
作中で頻繁に言及される、悪運、幸運、運命と言った言葉たちについて、その正体は何なのか。
荒唐無稽でテンションの高い作品にあって、このテーマ性は一貫されているように思える。
殺し屋たちの辿る顛末について、このテーマに照らして振り返ってみるのも一興であろう。

[まとめ]
日本の小説をハリウッドが本気で映画化した、気楽に楽しめるコメディ・アクションの佳作。

小説好きとしては、今作やオールニードイズキルのように、日本のエンタメ小説がハリウッド映画化されるパターンは期待値が上がる(邦画にももちろん期待したいが…。)。
なお、原作の殺し屋シリーズの中では、恐妻家の殺し屋を描いた3作目「AX」が1番好きだ。伊坂幸太郎作品の中でも1番好きかも知れない。