星一

ボクたちはみんな大人になれなかったの星一のレビュー・感想・評価

3.8
 映像系のデザイナーの主人公がある日、かつて恋人だったかおりのfacebookのページを偶然見つけたことで、これまでの人生を遡ってみていくストーリーですね。

 この映画は、90年代のファッションだったり、音楽が好きな人だったらおすすめだと思うし、メジャーなものよりも、サブカルとか周りとは違うようなものを好んできた人には、この映画はより感情込めてみれるし、胸がキュってなるように感じると思う。

 この主人公のかつての彼女”かおり”は、まさにそういう人物だったと思う。
かおりを見てると、当時のサブカル女子ってまさにこういう人なのか、と思った。人それぞれだし、違う人もたくさんいるんだろうけど、オザケンが私にとっての王子様って、まさにそうなのかなって思ってしまった。(僕も好きで良く聞くけど、当時のオザケンってサブカル女子の王子様的な印象だと思ってました。)

 だから、中島らもとか宮沢賢治とか読んだり、ビューティフルドリーマーを何回も見たり、主人公もまさにそうなのかと思った。

 普通に働いて、普通に生活する。じゃなくて、もっと漠然としてるけど普通じゃない生き方がしたい。かっこいい生き方がしたい。主人公は、自分はそんな普通な生活はできないとも思っていたのかもしれない。

 でも会社で働いていると結局、普通に生きて、普通に生活してる。どんなに煌びやかな場所にいて、地位を気づいてきても、嫌だなって口には出していても、結局、出会う前に居た焼き菓子工場の時と同じような状態になってる。

 そんな時に彼女の言葉を思い出して、それは中島らもの小説の中のように、それまで生きてきて、見たもの聴いたもの感じたもの書いてきたもの、それが一本の小説が出来上がってくような最後の走るシーン、ここを見た時は鳥肌が立ちました。

 出会いと別れがある中で、自分だけが取り残される感覚。人には、どっか行ってしまうと言われてるけど、自分自身は何も変わってない感がある。

 かつての彼女はすっかり変わって、普通に結婚して、普通に人生を謳歌している写真をfacebookにあげていて(彼女の名字が”小沢”になってるのがなんか皮肉)自分はいまだに付き合ったと同時に入社した制作会社にいる。

 主人公も含め、みんな何か変化を求めていて、だから周りがどこか遠くに感じてしまう。これは時代関係なく、みんな感じることだと思う。だからこのタイトルである「ボクたちはみんな大人になれなかった」なのかなと思った。この現状にもがく様はめっちゃ感情移入できた。

 原作小説とはストーリーの進行が結構違うような気がしたし、オリジナルキャラもいたけど、小説と同じような雰囲気で楽しめた。また小説の方も読みたくなった。

 僕自身90年代に生きてきたわけじゃないので、100%この時代を理解しているわけじゃないけど、それでもすごく楽しめたし、この妙にエモく感じるのは、多分大体の人に伝わるような気がした。
星一

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