このレビューはネタバレを含みます
あの頃、タワレコに行けばオシャレだと思っていた。
TVプロデューサーが東京と仕事と時代に流されながら、気づけば46歳になっていたお話。
お金と権力はそこそこある。
その気になれば簡単に若い女の子を抱くこともできる。
結婚しようと思えばできる彼女だっていた。
どこか、すべて俯瞰してみてしまう主人公・佐藤の出会ってきたひと、こと、もの、音楽、空気の記憶。
それがいまの佐藤につながっている。
90年代後半、佐藤は地味だった。とても地味でなんとなく生きていた。
文通で知り合った、『普通』を嫌うカオリ。
ラフォーレ前での待ち合わせ、彼女の目印はHMVのショッパー。
次第に惹かれ合い恋人同士になる。
彼女に言われた『大丈夫だよ、君は面白いから』を励みに頑張ることができた。
しかし、結婚の話をした後、彼女はさよならも言わず佐藤の元を去る。
その後、佐藤はTV制作会社で仕事に奔走しながら、さまざまな人に出会う。
チャラい同僚、ブラックな上司、いけすかない業界人、ゲイのバー店長、危うい魅力の女の子、美人な彼女。
結婚直前の彼女との結婚にも乗り気になれない佐藤。
根底にカオリのいう『普通』になりたくなかったのかもしれない。
しかし、そんなカオリは『普通』になっていた。
彼女の呪縛から解き放たれていく佐藤は、気付いたら46歳になっていた。
90年代に青春を送った世代には全てが懐かしくて、佐藤とカオリを見ていると、自分のあの頃を見ているようで恥ずかしくなるかもしれない。
それだけ、リアル。
誰もが通るであろう、ひとと違うと思われたいシンドローム。
そして歳をとり、それを回顧し恥ずかしくなる。
でも、そんな自分をかわいくも思えるようになる。
なにを普通と思うかは人それぞれだけど、ああ、幸せだなと感じる瞬間、それはその人の描いた普通が実現できているんじゃないかと思う。
森山未來も伊藤沙莉も素晴らしい。
そして、
伊藤沙莉と大島優子の対比の描き方がまたいいなと。
あの頃、吉川ひなのに憧れていたわたしは、
前髪をパッツンにして、カヒミカリィを聴いていた。
流行りの音楽は地元のTSUTAYAで知れたけど、
タワレコやHMVでみんなが聴いてない音楽を知り、聴くのがオシャレだと思っていた。
制服の着こなしの小さなこだわりはリボンをアイロンで細くつぶして結ぶことだった。
それがクラスで流行った。
ダサい。ダサくてかわいい歴史。