CANACO

浅草キッドのCANACOのレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
3.6
ビートたけし氏へのリスペクトとたけし軍団への配慮に溢れた作品。

故・ナンシー関さんが残した「お涙頂戴は、創造力の貧困と逃げ場である」(※)という言葉に共感する自分は、あけすけな悲哀モノを大方観ない。泣ける映画も求めない。しかし劇団ひとり氏のファンなので、ヒューマンドラマ系の『青天の霹靂』と本作品を続けて鑑賞してみた。

売れない芸人が困難を経て成功するというストーリーは、シンプルに強いカタルシスを得られる。ナンシー関さんのいう「泣かせたら勝ちと思ってる」やつのルールなら、悔しいけど何度でも負ける。これはただのお涙頂戴映画なのか考えてみたけど、やはりそれだけではない。プロの矜持、芸人としての意地をしっかり見せる造りになっているからだと思う。浅草芸人の世界観を愛している感じも伝わるし。

キャスティングが前作同様ツボで、本作品にも杜夫(風間杜夫さん)が出てくれたから、それだけで3.2超。柳楽優弥さんも門脇麦さんもいいけど、ナイツの土屋伸之さんの配役は絶妙&最高すぎる(きよしには似てない)。相方との演技レベルの差がエグいのも楽しい。こんなに上手いのすごくないか。

柳楽さんは、意識したかどうかは知らないが、『全裸監督』で山田孝之さんが確立した「憑依演技」をそっくり踏襲したかのよう。若き日のタケシの髪型をした柳楽さんは普通に山田孝之さんに似てて、最初山田さんかと思った罠。
太田プロのパイプを生かして(?)松村邦洋氏に柳楽さんへの演技指導を依頼しただけあり、実際かなり憑依している。北野武氏がまとっている尊厳(恐ろしさ含む)を高いレベルで表現していた。

※ ナンシー関さんの言葉「お涙頂戴は、創造力の貧困と逃げ場である。プライドを捨て、ハナからそれを堕落だと認識していないほど鈍感な、お涙頂戴へ身を堕した人や作品は、観客はその一点で否定する権利を持っている」

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ほか

大泉洋さんは安定の大泉洋ながら、渋みと重みが足りなかった印象。

『ラ・ラ・ランド』なのか『シカゴ』なのか『タイタニック』か三谷幸喜作品なのかわからないが、劇中で歌うシーンやPVでも流行りの長回しなど好みの演出や音楽がたくさんあり演出は満足感高め。自分のものにするのが上手すぎる。

エンディングのサザンの歌だけはよくわからなかったけど、アニメは「天才たけしの元気が出るテレビ」のオープニングを思い出した(全然画風違うけど)。油断してたら企画に秋元康氏が入っててびっくり。

居酒屋で本作品の話に付き合ってくれそうな人が思い浮かばないので、ここに書き散らしてしまいました。
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