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浅草キッドのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
3.9
観る前に想像してたビートたけし(ツービート)のサクセスストーリー要素は案外少なめで、それ以上に深見千三郎とたけしの師弟愛、深見の芸人人生にスポットを当てた作品だなと思った。

自分にとってビートたけしは初めて見たときから既に軍団を率いていて映画監督もする大御所で、過去についても「昔は漫才コンビを組んでいて、ひょうきん族でスターになった」ぐらいの合ってるか分からない知識しかなかったので、本作を観て点と点が繋がる的な映画体験ができてとても良かった。深見の口癖(「バカ野郎」「この野郎」)まんま今のたけしじゃんとか、タップダンスにはこんな経緯があったのかとか、不謹慎・毒舌ネタが脚光を浴びたきっかけでこんなルーツがあったのかとか。
千春が言った「欽ちゃんみたいになって」も自分にとっては意外な言葉で、物心ついた時には欽ちゃんもたけしも大御所だったのでどっちが先、みたいな分解能がなかった…。

ここがターニングポイント、みたいなシーンで分かりやすく印象的な演出が使われてるのが好きだった。
1つ目は「芸人なら日常的にボケろ」と言われたたけしが初めて深見にボケをかます楽屋のシーン。深見の左手イジりというかなり際どいボケが放り込まれてからの緊張感が印象に残ってる。深見がたけしを芸人として見始めたシーンだと思うし、たけしのその後の芸風が垣間見えるシーンでもあるなと思った。
2つ目は初めてのテレビ収録でスタッフの指示を無視すると決める舞台袖のシーン。深見の言葉が最終的にどんな決断、選択を引き起こしたのか描かれてるのが良い。無言で踏むタップも印象に残ってる。

爆笑問題のラジオで太田の「当時のたけしはあんな暗くない、深見はもっとヤクザみたいなやつであんなおしゃれじゃない」という指摘に対して、劇団ひとりが「それは知っててやってる、色々な世代に響くように程よく美化してる」的なことを言ってて面白かった。
多少のチューニングはあるかもしれないけど、不器用で優しい深見の人間性は伝わってきた。たけしと井上を待ち伏せて飯に誘うシーン、たけしがフランス座を辞めたいと言う楽屋のシーン、タクシーで帰るたけしとの別れ際のシーン、あたりが印象に残ってて、どれも不器用で愛おしくて良かった。
劇団ひとりがインタビューで言っていた深見に憧れる理由が自分もまさにって感じでとても共感できた。「僕はむやみやたらに人と争わないし、長い物には巻かれるし、スポンサーの顔色も窺うし、SNSで炎上しないようにも気を付けています。時には自分の意見と違うときでも、世の中の顔色を伺って発言するような人間なので、こういう人たちに憧れる」
https://eiga.com/news/20211209/13/

きよし役のナイツ土屋は、「ツービートの漫才のシーンは絶対に成立させないといけないという思いから」、「漫才ができて浅草の匂いを知っている、そしてどことなく雰囲気や立ち位置もきよしさんに似ている」という理由でキャスティングされたらしい。
https://eiga.com/news/20211209/13/
「火花」の2丁拳銃・修士然り、いくら俳優でも演じきれない部分、餅は餅屋的な部分がやっぱりあるんだなって感じ。

他にも、松村邦洋にお願いしてたけしの喋り方や癖などを柳楽優弥に仕込んでもらったものの、モノマネになりすぎてしまうのでやっぱり忘れてくれということになった話笑える。
https://getnavi.jp/entertainment/682484/
とは言え、わりと重要なシーンでは劇団ひとりが言うところのモノマネが顔を覗かせてた気がした。一番感じたのはフランス座を辞めたいと深見に言う楽屋のシーン。
オスカーの俳優部門やSAGでは実在の人物を演じた役者がノミネート、受賞するケースが多いけど、こういう話を知るとなるほどと納得できる。

現代のたけし役は本人にオファーしたけど断られてゴッドタンで組んでる特殊メイクのチームに力を借りた、金属バットの時事ネタを取り入れた漫才が世に出るのは本当はもっと後年(チューニングじゃなく劇団ひとり含め誰も気付かなかったので単なるミス)、とか色々裏話があって楽しい。
「ストリップ劇場を舞台にする以上、ストリッパーの悲哀みたいな要素も入れたかった」と劇団ひとりが言っていた千春役の門脇麦、今年観た「あのこは貴族」では上流階級の箱入り娘にしか見えなかったし振れ幅すごい…と思って見てた。
「エンディングシーンはタイタニック」と書いてる人がいてなるほど…!と思った。演出がまんまだったし、実話に基づく話、存命の主人公と主人公に影響を与えた故人っていう組み合わせも共通。タイタニックと同じく決して悲しい物語じゃないということを映画的に伝えてくれるようなエンディングで良かった。