踝踵

浅草キッドの踝踵のネタバレレビュー・内容・結末

浅草キッド(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

すっごい良かった。「時間」の描写が秀逸だった。こんなに泣くと思わなかったし思い出してもちょっと泣く。

エンタメの流行が劇場からテレビへと移り変わる「社会の早い時間の流れ」と、社会に飲まれずに残ろうとする「個人の中で止まった時間」の対比構造を、「同じ時代を違う速度で生きる2人の天才」を通して描かれているのが本作の魅力。
この映画を見るまでは、ノスタルジアはただ「懐かしむ感情」の事だけだと思っていたが、浅草キッドで描かれるノスタルジアは非常に重たくて尊いものだった。

また、トレンドに追いつくどころが時代をリードするたけしと、止まった時間の中で変化を求められる深見師匠の2人は対照的に描かれつつも、2人共どこか「天才特有の孤独感」という共通点があり、見ていて胸が張り裂けそうだった。その共通点のためか、違うスピード感で生きる2人が芸を披露するときはぴったりと同じ時間を生きている感じがして、特に2人が居酒屋で漫才のように喋って爆笑をさらうシーンは安心感があり、同時に儚い。

芸人や芸事のリテラシーを知る映画としても秀逸だと思った。劇場に足を運ぶのも、どのチャンネルを見るのも客が主導権を持っている。しかし、いかなる時も世間に媚びることなく、客に笑われずに笑わせる事を貫き通す芸人の美学にしびれる。それが「芸人だ、バカヤロー」に詰まっていて本当にカッコいい。

役者全員すごくて、過去1番かっこいい大泉洋を見れる、原付にダルマ乗せてウィーリーしてた人と同人物とは思えない。柳楽優弥の演技もめちゃくちゃすごくて、執念すら感じて怖い。ナイツの土屋がたけしの相方役でやってるの全然気づかなかった、めっちゃ自然だった。
すごくリアリティのある演技をしているが故にセットのスタジオ感がちょっとだけ気になった。

音の演出もなかなかに良く、マ○かきの音で焦りを表現したり、タップダンスで緊張を伝えるなど意外性もありつつ明快だった。明快なので観客はしっかり映画について来れる。
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