somaddesign

浅草キッドのsomaddesignのレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
5.0
劇団ひとりの才能とたけし愛が炸裂してる。

:::::::::::

昭和40年代の浅草。大学を中退後、芸人を志したたけしは浅草フランス座に転がり込み、深見千三郎に弟子入りが叶う。東八郎や萩本欽一など大人気芸人を育てた深見の下、芸人として大成すること夢見るたけし。しかしながらテレビの普及とともに演芸場の客入りは減る一方で……。

:::::::::::

フライデー襲撃事件から35年目の同じ日に配信された今作。軍団の面々を筆頭に、数多くの芸人さん達に絶賛されているが、当の北野武本人の評価を聞いてみたい。
北野武がビートたけしになるまでを綴った、ベストセラーの半自伝的小説の何度目かの映像化。88年に出版されてすぐ、テレビ朝日でたけし役・天宮良、深見千三郎・中条静夫でドラマ化されたのを見たような。

何者でもないひとりの青年が、運命的な出会いの末に身を立て世に打って出る立身出世モノとしても熱いけど、今作のキモは師匠・深見千三郎の物語だと思う。
たけしがエレベーターボーイを始めた72年頃には、すでに斜陽にあったという浅草の街と演芸場文化。エンタメの中心はテレビに移り、お笑いのスタイルもコントより漫才に変わっていく漫才ブーム前夜。移りゆく時代に背を向けて、不器用に自分の有り様を変えない/変えられなかった男の悲哀の物語でもある。

のちの漫才ブームの中心になる男の新しい時代の幕開けと、静かにその幕を下ろしつつある滅びゆく世代の黄昏の対比がいい。奇しくも弟子の成長が、師匠の芸人寿命を縮める遠因になっちゃうのも悲喜交々。


柳楽優弥の完コピが物凄い。シルエットからしてもう似てるし、仕草や癖の完コピ具合が物凄い。長年付き人を務めた無法松をして「墓参りのシーンは俺でも区別つかないかも」と言わしめた。ビートたけしが若い頃の独特のオーラ、狂気性が滲み出るような佇まいを再現して見えるし、天才が故に孤独を深めてる感じホアキン・フェニックスぽくもある。漫才シーンの稽古も相当大変だったろうに、速いテンポ感がちゃんとツービートだし、ちゃんと漫才っぽい。

深見千三郎師匠はコワモテのイメージがあって、優しい顔の大泉洋だと迫力足りないかと思ってた(弟子をぶん殴ったりしなそうだし)。だけども昭和の頑固親父じゃなくて、照れ屋で不器用な昭和の喜劇人に見えて、より多層的なキャラに見えた。厳しい指導の向こう側に、より良いコントを目指す喜劇人の顔があったり、弟子の成長に喜ぶ一方、凋落してく演芸場を守れない自分を不甲斐なく思ったりもする。シャイで心の内を見せないキャラなので、嬉しい時ほど悪態をつき、辛い時ほど笑って見せる……なんとなく現在のビートたけし像を投影してるように見えた。

門脇麦演じた踊り子の千春も良くて、夢が残酷な現実に食い潰されてく様は最近見た「ラストナイト・イン・ソーホー」みたいで胸が痛む。夢を見なければ挫折もないことを体現する役で、ヒロインとしてたけしの憧れでありながら、現実の厳しさ/夢を叶える過酷さを体現。たけしを送り出すセリフが、出所する受刑者仲間がかける言葉みたい。よほどフランス座の生活って過酷だったんだろうし、成功を信じてる応援と、ダメでも戻れる場所はないって退路を断つ激励の意味もあるだろう。

深見師匠の妻を演じた鈴木保奈美も出番こそ多くないものの、どっしりとフランス座と深見師匠を支えようとする重鎮感。芸のためなら女房も泣かす〜昭和芸人の嫁さんの大変さが偲ばれる薄幸の美女っぷり。

劇団ひとりが積み上げてきたノウハウを全部ぶち込んだ感も熱い。松村邦洋と一緒に柳楽くんへのたけしモノマネ指導に始まり、ドラマ版「しゃべり暮らし」の監督した経験を漫才シーンの撮り方に活かしてる。印象的な冒頭の特殊メイクは、長年劇団ひとりが「マジ歌選手権」でしてきた特殊メイクの数々が活きてて、同じ特殊メイクチームがそのまま担当してるそう。経験値の活かし方に無駄がない。

難癖つけるなら…これってほぼタップダンスの映画では。深見師匠から芸人としての所作や心構えの指導はあるものの、お笑いそのものを教わるシーンがないので、観る人によっちゃあ、なんでお笑い学ぶのに必死にタップ踊らされてるのか戸惑いそう。
40代以上の人なら芸人ビートたけしの印象があろうが、自分の周りの若い人にはそもそも芸人の印象がないみたい。今作が若い人や海外の人にどのように受け入れられてるのか興味R。

余談)
当初Wモアモア役に浅草キッドがキャスティングされていたが、漫才シーンがWモアモアが当時していた漫才フル尺の完コピと難易度が高すぎて降板。完成版を見た博士が「フル尺じゃなくていいんじゃん」とひとりに尋ねたところ「お二人が降りたから短くしたんですよ。ほんとはもっと長くする予定だった」「お二人のこともあるから、後輩芸人のコンビをバラバラにして映画用にコンビ組んでもらって稽古してもらったり、すげえ気を使ったんですからw」とのこと。
ちなみにWモアモアは2020年に結成50年の節目に解散。ナイツによると「おぼんこぼん師匠以上に、シャレにならないレベルで仲が悪かったので番組にすらできなかったww」だそう。
somaddesign

somaddesign