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浅草キッドのsueのレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
4.5
大傑作じゃねえか、バカヤロウ。

演芸場からテレビへと娯楽の場がどんどん移行していく昭和50年代を背景に、時代の波に乗ってスターダムにのし上がっていく若手芸人ビートたけしと、その師匠で時代に取り残されていく浅草のコメディアン深見千三郎の師弟愛を、ユーモアとペーソスで紡いだ郷愁誘う素晴らしい物語になっている。

しかも単なるノスタルジーに終らず、現代における「テレビをオワコン扱いする風潮」や「面白さよりポリコレ優先、無難が美徳の制作サイド」への厳しい批評と、自分が愛した芸能の灯火を絶やすまいと留まり続ける時代遅れの者たちの意地を、いい塩梅でスッと偲ばせているところに本作の強度を感じる。

何よりすごいのは「お笑い」の場面できっちり笑わせるところ。どんな名監督でもお笑いステージの場面を撮らせると大体スベるのがお約束。本職芸人を起用しても難しいのに、俳優でそれを成立させるなんて。流れるようなテンポで場面はサクサク変わるのに、何度声出して笑ったことか。
まず「笑いの才能が当然のようにそこにある」ことが信じられるから、その先のストーリー展開に唸ることができる。

脚本・監督は劇団ひとり。あえて芸名でメガホンを握った覚悟。彼本来の情熱的でセンチメンタルな部分が、本作では効果的だった。大仕事を成し遂げてくれたと思う。

監督の熱意に応えてか、役者陣も好演。
特にタケシ役の柳楽優弥の憑依的な役作りは必見。見た目全然違うのに、あまりにも特徴を掴んでいるため、どんどん若い頃のタケシに見えてくる。
冗談抜きで、ラミ・マレックが演じたフレディ・マーキュリーにも匹敵する名演ではないか。

個人的にはNETFLIX史上最高傑作。

だけど、欲を言えば映画館で観たかった。
満員の観客と手を叩いて笑いながら、あるいは客が2人のすっからかんな劇場の端っこで。きっと、どちらでもスゴくいい。

まぁテレビの世界に挑戦して時代の寵児になる男の物語だから、茶の間で観るのもコレはコレでいいのか。

天才たけしへの敬愛の念と、行き場が無かった彼を受け入れ才能を育んだ浅草フランス座への慕情に溢れたラストに笑いながら落涙した。
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