ことりちゃん

浅草キッドのことりちゃんのレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
5.0
劇場公開じゃないのが勿体無いほど良い作品。

劇団ひとりさんと大泉洋さんのタッグは青天の霹靂でとても良かった記憶があり、期待して見ましたが、青天の霹靂より良かった。

原作を知らないのでどこまでビートたけしさんの半生に忠実なのかは分からないけど、とにかく柳楽くんのお芝居が本当にリアルで自然で、余計に泣けました。

洋さんは昭和の男を演じるのがとても似合う。どこかで、渥美清を彷彿とさせるの言われていたのは納得。

最後のあっけない展開まで、1人の人生をどこまでもリアルに描いていて、下手な演出をされるより余計に泣けました。

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24.2.27追記
大泉洋さんのファンなので以前見ていたけど、洋さんに再度惚れ直すきっかけがあってまた彼のお芝居に触れたくなり再視聴。
結果1度目よりべしゃべしゃに泣いたし、結末を知っててもう一度見ると改めてひとり監督の本気と、本物だけで構成されたキャストによる本物の映画だと感じた。
ひとりさんはこの企画を様々な配給会社に持っていって断られ、拾ってくれたのがNetflixだったそうだけど、Netflixだからこそ忖度の無いキャストと脚本でこの素晴らしい映画が出来たと思う。
これは劇団ひとり自身の芸人に対するリスペクトから始まった映画だと思うので、中途半端に配給会社でスポンサー忖度やら事務所忖度やらやられたら絶対にこの感動は生まれなかった。むしろ配給会社の見る目の無さに感謝すらする。

戦争で何もかも失ってそれでも人々が力強く生きて、今より圧倒的に何も無いのに今よりも人が人臭く生きていた時代。
深見千三郎はそんな時代を生きた人であり、テレビという新しい時代に消えていった人だった。
私は90年代の生まれなのでまさに近代テレビ全盛期を経験していてテレビの楽しさと共に生きてきたはずなのに、
タケが師匠にフランス座を辞めると告げた時のやり取りに、タケがテレビに出る前に師匠を思い出してタップを踏み半端をやらないと覚悟を決めた時に、何もかも失って立場が変わってもハイヒールひとつで信頼を確かにする師匠とタケの関係性に、今の時代に失われてしまった人の心を見て、そのあまりの美しさ儚さに泣くしかなかった。
千春も、麻里も、他のフランス座の人達も、皆愛すべき日々を確かにそこで送っていたはずなのに、それが無くなる描写が呆気ないどころか殆どちゃんと描かれないのがまた良い。
じわじわと客足が遠のき、徐々に芸子が居なくなり、千春はいつの間にか誰かの妻で母になり、他の人はどうなったかさっぱり分からない。
人生って確かにそう。劇的で感動的で努力が報われる奇跡なんてほぼ起きない。殆どはこのタケ以外の人生を送るのだと思う。

この映画は派手な演出が無いのに、大泉洋と柳楽優弥をはじめとする全員のお芝居が登場人物それぞれの人生をかけがえのないものだと思わせている。
今私達に、ここまで愛すべき人生を送れるだろうか?
こんなにも尊敬出来る人を生涯で得られるだろうか?
タケがフランス座を辞めるやり取り以降は嗚咽する程泣いて見た。
都市伝説のような存在の師匠があっけなく亡くなって、遺影の前でボケてみせるタケの涙まで、何もかもが美しかった。
これがビートたけしさんの自伝だろうが作り話だろうが関係ない、この作品の中に確かに人は生きていて、その生き方に涙が止まらなかった。

昨今原作がある作品の実写化で色々あるけど、
やっぱり余計な忖度が無ければ良い物は出来るし、本物が集まればお芝居だけで人は感動させられるっていう証明になる作品だと思う。

良い作品って、忘れた頃にふっと思い出してまた見たくなるんだよね。
まさにこれはそういう作品でした。

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脚本⋯1
演出⋯1
キャスティング・演技⋯1
音楽・美術・衣装⋯1
ハマり度⋯1