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女の秘めごとのhorahukiのレビュー・感想・評価

女の秘めごと(1969年製作の映画)
3.9
フルチが『めまい』を撮ったら…。

10年以上コメディばかりを撮り続け、それまで特に日の目を見ることもなかったフルチが監督した初のジャーロ。本作の興収はそれほど目立ったものではないながらも、同年に奥様が亡くなられたことも関係してか、フルチは本作以降ホラー・スリラーに大きく舵を切ることになる。そんなフルチの記念碑的な作品。

喘息で病弱な奥様を放ったらかしにして不倫に勤しむクソ夫ジョルジ。兄と共に経営する病院では、兄の言うことも聞かず嘘ついて金をせしめることに一生懸命。そんな仕事もプライベートもクズ男なジョルジが不倫している最中に「奥様が死んだ」という連絡が入る。奥様とは超仲が悪かったのに、何故か自分を受取人とする多額の生命保険契約をしていた。しかも奥様と瓜二つなストリッパーまで現れる。本当に奥様は死んだのか…?そしてついに警察の疑いの目がジョルジに向けられ始める…。

これほど応援したく無くなる主人公も珍しいけれど、ジャンソレルが正統派イケメンだから好青年に段々と見えてきてしまう不思議!😂クライマックス付近までクソ野郎なこと忘れて普通に応援しちゃってたし🤣

サンフランシスコを舞台としていることからも、フルチ版『めまい』と言っても良いような展開。「不在」がいつまでも付き纏うこと、そして主人公一家のファミリーネームがデュモーリアであることから『レベッカ』も意識しているのだろうし、ジャーロ界のレジェンドである『デボラの甘い肉体』やクルーゾー『悪魔のような女』あたりは間違いなく下敷きにしていると思う。

開放感に満ち清廉潔白な外観をした職場の病院と、奥様が住んでいる草が不衛生に生い茂った退廃的な外観をもつ自宅との対比。奥様の担当看護師が口にする「よっぽど奥様を愛されてるんですね❤️」との言葉に「も、も、も…もちろん👍」と返すジョルジの二面性を表すかのような窓に映った鏡像。奥様の実像を撹乱させるかのように、何層にも渡った鏡像の共演を空間をいくつも跨いでワンカットで見せる演出。サスペンスながらもずっと主観を追い続けるのが流石のフルチ。

ジョルジと不倫相手は相互にタバコを渡し合うのに対して、奥様と瓜二つのストリッパーはジョルジからタバコを奪い、受け取ることを拒否する。表面的にはサスペンスを盛り上げる演出でありながら、フルチが追うのはその主観。ストリッパーと重なる奥様の像が死姦(過去との結合)までも想起させ、ジョルジの仕事である医療においてつき続けた嘘のしっぺ返しを食うかのように、適切な保存がされずに腐乱する死体、すぐには行われない毒物検査、歯形等々、全てが「過去」からの攻撃としての意図を持たせている。象徴的なラストもヒッチコック的なサスペンス演出でありながら、『めまい』と同様な「過去」からの再誕を本作は主題としているように感じた。

この辺りは奥様が居ながらも沢山の美女に囲まれていたフルチ自身への戒めのように思えてしまうのが面白い。というか私が持ってるBlu-rayは108分(107分チョイ)で、ホラー秘宝のサイトでも108分なのに今日から上映されるアップリンク京都では99分(2分が予告だから97分?)しか上映時間取られてないのはカットされてるバージョンを上映するってこと?確かにところどころがカットされてるバージョンはあるんだけど、それなのかな?🤔カットされてるとこ結構重要だと思うんだけど…。
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