ゆかちん

マ・レイニーのブラックボトムのゆかちんのレビュー・感想・評価

3.0
うーん。。ツラ…。。
一見そんな風には見えないけれど、
いわゆる「救いのない映画」のような印象も持った。
しかも、これが歴史的にみても、今でも、現実のことなのだろうなということで余計に絶望感。

役者陣の演技にパワーがほとばしっていて、凄く引き込まれた。




1927年、シカゴの録音スタジオで人気歌手マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)のレコーディングが始まろうとしていた。
4人組バックバンドのひとりであるトランペット奏者レヴィー(チャドウィック・ボーズマン)は野心に燃え、他のメンバーたちと揉め事を起こす。
やがて遅れて到着したマ・レイニーは白人のプロデューサーらと主導権を巡って激しく対立し、スタジオは緊迫した空気に包まれるーーー。




シチュエーションとしては、レコーディング中の会話劇というシンプルなもの。
でも、その中に色んな話が出てきて、それぞれに意味があるよう。

それぞれの話や態度を観ていると、同じ黒人と言っても白人との向き合い方はそれぞれ異なる。

マ・レイニーは、終始強気でわがままな姿勢を崩さないし、彼らを信用することは微塵もない。これは、こうでもしないと白人たちに利用されるだけとわかってるからなのかなと。また、こういう態度を取らざるを得ない過去の経験があるのかなと。
傲慢な態度も鎧なんだろうなぁと…。
ヴィオラ・デイヴィス、DCスーサイド・スクワッドに出てくるアマンダや。
圧の強い一筋縄では到底敵わない女性を演じるのうますぎる!

一方、レヴィは、白人に対して下手に出ていい顔は見せるが、反撃の機会を虎視眈々と狙っている。
これは、彼の両親の壮絶な白人からの被害を目にしたから。この話をするときのチャドウィック・ボーズマンの鬼気迫る演技が凄かった。
チャドウィック・ボーズマンの遺作なんだね。。陛下…。。
めっちゃ凄い気迫ある演技。きっと病でしんどかっただろうに。。そんなことを感じさせない迫力があってすごかった。

この2人は対極な態度だったけど、他の黒人のメンバーもそれぞれ何かあったんだろうなと。
黒人たちが生きるために大切なのはある種の「諦念」であると実感しているような会話とかも。
これから変わらなければならないと熱弁するところとかもヒリヒリした。


でも、酷い目に合わせてくるのは白人なのに、怒りや憎しみは白人に直接は向かわず、仲間のはずの黒人に向いていく。

最初はテンポの良いじゃれ合いのような会話から、段々喧嘩みたいになっていく経過とか凄い演技だなぁと思うと同時に見ていて辛かった。
レヴィーの最後の行動も、「ああぁ(絶望)」てなりました。

利用するだけ利用し、差別してくるのは白人なのに、そのことに対するもどかしさや恨みのエネルギーは、同じく差別されている黒人に向かうという…。

そして、しれっと白人が美味しいところを奪って終わり…しかも、その情熱は汲み取らず、素っ気なく…みたいなエンド。
ひ、ひ、皮肉、、!

これは…解決しないよね…という。
仲間内に向かって潰し合うようでは…。
差別問題が無くならない要因の一つなのかなぁ。(要因は他に沢山あるし、もっと重い要因もあるんだろうけど)

白人社会の中で、夢や希望を断たれ、絶望と諦念の中で生きていくしかないという現実。
夢を叶える才能やエネルギーを一体何にぶつけたら良いのかというやりきれなさ。

地下のレコーディングスタジオの開かない扉、いざ開けたら行き止まりで、空が見えるだけ。
白人社会の中で生きる黒人はこういう状態なんだよってことなのかな。。

きっと、黒人差別に限らず、こういうことがずっとあるんだろうなと、人種差別の歴史のリアルを観た気持ちになりました。
はあ、ツラ…。
ゆかちん

ゆかちん