菩薩

海に向かうローラの菩薩のレビュー・感想・評価

海に向かうローラ(2019年製作の映画)
4.2
とても良かったし嘘の無い映画だなと思った。トランス女性であるローラと彼女の存在を認められない父親が、母(妻)の死をきっかけに再会しその遺灰を遺言通りに処理する為にギッスギスながら旅に出るお話。ローラはそんな父親が当然大嫌いだし、父も父で「分からない」「理解の範疇を超えている」の一点張りでなかなか話にならないが、共に私の方が母(妻)を愛していたと証明したいが為にもなんとか旅は継続される。トランス差別者にとって風呂とトイレは攻撃の為の常套句として用いられるが、この父親も娘に対し立ちションを要求するクソっぷり、ただそこに明確な「悪意」があるかに関しては難しく、彼は彼で「息子」だと思い育てて来た子がある日突然「娘」になった事実に対し克服しようの無い葛藤を抱え続けている。旅の途中で少しは二人の距離が近づいたかと言えばそこまで接近したとも言い難いが、ただ「娘と父親」の関係は難しくとも「子と親」の関係性の回復は多少見られ、彼女は最後自ら積極的に父親に対しアプローチを試みる。結局母親の遺言もその目的は果たせずに終わるが、彼女の魂は死後も二人の中をどうにか修復せんと試みている様に取れるし(この辺りは若干ファンタジー)、目的が達成されてしまえばそれで二人の関係性が終わってしまう事を危惧してのあの結末なのかもしれない。途中のナイトクラブでの女性同士の連帯も清くて良い、後はどうにかして父親が自分自身にケジメをつけられれば…と思うが、きっと一朝一夕にはいかないのである。ビジュアルも良いし話もシンプル、私は当事者ではないので無責任かもしれないが、存在の自己回復映画として充分に観る価値はあると思う。
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