うにたべたい

ネズラ 1964のうにたべたいのレビュー・感想・評価

ネズラ 1964(2020年製作の映画)
3.2
大映がガメラの前に企画していた伝説的映画"大群獣 ネズラ"をモデルにしたドキュメンタリー風映画です。

ネズラを元にした映画というと、2002年のやつが最初に思い浮かびます。
そちらはネズラたちへの愛が一切感じられず、なんでネズラと名付けたのかと特撮ファンから批判が殺到したという経緯がありました。
そういう、ある種事件もあって、ネズラを元にした作品は作りづらいのではないかと思ったのですが、本作はちゃんと元作品に対するリスペクトが込められた、良作だったと思います。
なお、劇中白人は登場しましたが、コーラの味を説明するシーンはありませんでした。
(あったら逆に盛り上がった気がしないでもないですが)

大映がネズラを企画し、トラブルの末頓挫した出来事を元にしていますが、そのまま再現ドラマにしたものではなく、会社名は大映ではなく太映となっています。
社長の永田秀雅はナガノという役名で螢雪次朗が演じており、築地米三郎はツカジ、湯浅憲明がユアサかな。
人物像は寡聞にして存じないですが、他の方のレビューを読むと役の方も本人に寄せている部分もある様子です。

映画会社・太映でライバル会社に負けない映画を企画しているところ、社長のナガノは空を飛ぶ鳥から群れで暴れまわるネズミの怪獣の着想を得ます。
きぐるみではなく本物のネズミを使った撮影方法を採用し、苦心の末にテストショットの撮影に成功。
正月公開映画として宣伝を行い、脚本も完成、役者も決定し、製作は順調に見えたが、街に出没するドブネズミを大量に使ったため、衛生問題が発生し、近隣住民から苦情の声が上がるという展開です。

ストーリーはほぼ当時の状況に基づいていますが、流石に撮影に野生のネズミを使ってはいないようで、本作登場のネズミのビジュアルはかなりかわいく、大量のネズミがミニチュアの街を思い思いに動き回る様はほっこりしました。
正直、このネズミたちで"大群獣ネズラ"を撮り直したら、衛生問題もクリアするしヒット作になるのではと思いました。
その場合、"大群獣ネズラ"という感じではなくなってしまいますね。
"大群獣ネズラ ちゅーちゅー大作戦"とか、サブタイトルつけて、低年齢向けのファンシーな作品になりそうです。

ちなみに、ネズラというのは巨大なネズミ集団の呼称なわけですが、ラストには南方の巨大ネズミを使ったネズラの親玉「マンモス・ネズラ」の登場を予定していたそうです。
元はこちらも本物のネズミやぬいぐるみを使った撮影の予定だったそうですが、本作では怪獣としてデザインされた"ネズラ"が別途登場します。
本作のネズラは巨大な牙が前面に突き出ていて、しっぽも太く、全身赤黒い怪獣らしい姿形です。
ちょろちょろ動き回ることがイメージしづらく、怪獣としてはいいデザインですが、ネズミ感は薄く感じました。

撮影の為ネズミに電流を流したり、本当に溺死させて撮影するシーンなどは当然無く、最終的に大量のネズミに石油をかけて焼却処分する場面も、あるにはありますがあっさりしています。
元のネズラ撮影時にはネズミダニが大量発生し、適切な飼育環境に無いネズミが共食いし、脱走騒ぎもあった上で、近隣住民や保健所からの対応に追われるという、非常にまずい状況だったと思うのですが、本作ではそのドタバタがコメディタッチで描かれています。
本来はもっと凄まじいものだったと思いますが、ちゃんと調べた上で製作されている感じがあり、本作は本作で良かったと思います。