一休

TOVE/トーベの一休のレビュー・感想・評価

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
5.0
「天才には二種類いて、一つは自分の才能以外で生活を安定させるものを見つける能力がある人と、もう一つは無い才能をあるように見せて儲ける人だ。」というが、高名な彫刻家の娘として生まれ、絵画で身を立てようとしていたトーベ・ヤンソンは、なかなか認められない自分の芸術的才能を紛らわそうと、空想のいたずら描きをしては溜めていた。
自分の芸術的才能を、ほとんど唯一認めてくれているアトスと恋人関係になるが、相変わらず自分の作品は売れず、貧乏芸術家のままであった。
しかし、描き溜めていたムーミントロールの物語りをヘルシンキ市長の娘で演出家のヴィヴィカがそれに目を付け、『ムーミン谷の彗星』を舞台にして作者であるトーベともども人気を博すことになる。
トーベは、このヴィヴィカと初めて同性愛関係となるのだが、ヴィヴィカがパリに行って活動しだすことで疎遠となってしまい、その間にトーベはムーミンがヨーロッパ中でヒットし、イギリスのイブニングニュースペーパーの連載も始まって裕福に暮らせるようになっていた。
やっとヘルシンキへ帰ってきたヴィヴィカと再開したトーベは、彼女との仲が終わった事を認識し、ムーミントロールの制作を弟に任せて、自分の絵画と執筆をすることで新しい生活に向かっていくのだった。

この作品を観る限り、トーベはまさしく前者の天才だと言えるだろう。
自分を好いてくれる哲学者であり左派政治家でもある男性アトスでは満たされず、芸術家同士であるヴィヴィカとの性的関係に自分の居場所を見つける姿は、現代まで続く、上から目線で女性を見る男性への不信感が垣間見えている。
だいたい、トーベは1914年生まれだってことなんで、社会的倫理どころか法律で同性愛が禁止されていたヨーロッパで、隠しながらとはいえ自分の性癖を隠して生きるというのは並大抵のことではなかっただろう。
作中では、自分とヴィヴィカとの関係性を、他の誰も理解できない言葉で会話するトフスランとビフスランという登場人物で表しているぐらいに秘密にしておかなければならなかったという事だ。

それを考えるとハッピーエンドとは言えずとも、明るい未来が見えた所でエンディングを迎えているのだが、どうせなら東京ムービー版アニメに激怒した所まで話しを進めて欲しかったと思う一休なのであった。
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