カルダモン

TOVE/トーベのカルダモンのレビュー・感想・評価

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
3.7
ムーミンの作者であるトーベ・ヤンソンの自伝映画で、主にフォーカスされるのは彼女の家庭環境や色恋沙汰を巡るエピソード。なので、かわいいムーミン谷の住人達は登場しないです。

同性の恋人であったヴィヴィカの存在感に目を奪われた。トーベよりも彼女を目で追っていた。ブルジョワでありながら階級差を感じさせず理知的で美しい。彼女との仲はトフスランとビフスランというキャラクターに投影されて、アベコベな言葉を使って二人だけの世界が出来上がるのも楽しい。映画後半ではデザイナーであり、ムーミンのキャラとしても描かれているトゥーリッキーも登場するのだけど、演じている人が本人そっくりでびっくり。

元々は画家を目指していたトーベにとって、挿絵やイラストは手慰みのような落書きに過ぎず、本分は絵画にあると自覚していた。だから落書きがたまたま人の目に触れて褒められても素直に喜べない。自分は画家なのだというプライドは彫刻家として名の知れた父に対する反骨だったのだろう。しかし彼女の心を本当に映していたのは落書きの方で、それこそが人の心に届いた。

とぼけた印象のムーミンだけど戦時に生まれたキャラクターということもあり、物語には暗い影が付きまとう。なにしろ一作目の最初からムーミン一家は洪水に見舞われて家を失っており、ムーミンパパは行方不明という難民状態。まず安全な地を見つけて家を建てパパを救済するという話は、トーベの家庭が戦争に振り回されていることと重なる。とべとべトーベ。自由を求めて。

この映画、実は少し不思議な終わり方をしている。ムーミンが大ヒットした後に新たなパートナーであるトゥーリッキとの生活が始まり、そこでトーベは油絵を描いている。『新たなる旅立ち』と題したその絵は人物が一人立っているのだが、顔はのっぺらぼうで描かれていない。そのまま軽快な音楽と共にエンドロール。なんだろう、このふわっと落ち着かない感じ。解釈しようと思えばいくらでも出来そうだけど、あまりにも唐突だったので何も思い浮かばない。この絵が実在するのかもわからない。どなたかこのラストの意味を読み解いてくれたらありがたい。