春とヒコーキ土岡哲朗

キャラクターの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

キャラクター(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

なりたい自分にあらかじめなっていないコンプレックス。

創造と本物。
本物の迫力を知らないからリアルなものが描けない、ということがコンプレックスの漫画家。これまでの人生で自分が培ってこなかったものを、今からそういう人間になれと言われても難しい。でも、自分は自分の持ってないものを表現する道に憧れて、目指してしまった。
主人公が漫画家を諦める決意をした矢先に、本物の殺人鬼を目撃して、本物の迫力を描けるようになる。主人公は殺人犯を見たことを隠蔽するが、それは刑事的責任よりも、表現者としての嘘の面が大きい。表現者は皆、他人のやることから吸収して創作するのだから、元ネタが自分の外にあることは悪くない。でも、彼の場合はアイデアや技術ではなく感性・衝動の部分を殺人犯から「借りている」状態。だから、それを白状すると自分の才能のなさを認めることになる気がして、彼は犯人を見たことを警察に隠す。

自分は何によって自分だと誇れるのか。
終盤、主人公は自分の漫画で殺人犯を誘導し、直接対決する。殺人犯に指摘されたように、主人公も漫画内で殺人を楽しんでいた。殺人犯をモデルにしているうちに、自分の中にも暴力性が侵食していた。
最後、殺人犯の法廷での証言が、病室の主人公の気持ちを表すように響く。「ぼくは一体誰なんだろう」。暴力という衝動に駆られてしまったら、それが抜けて冷静になったとき、自分を確かめるものがなくなる。