TaiRa

BLUE/ブルーのTaiRaのレビュー・感想・評価

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
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ボクシングそのものを描く珍しいボクシング映画。

市井のボクサーとボクシングジムについての身も蓋もないリアルを描くのが面白い。吉田恵輔自身がボクシングをやっているので実感持って描けている。監督が殺陣指導も兼ねているボクシング描写は、派手さはなく生っぽい。実際に言ってそうなコーチングや試合外での関係者が交わしてそうな会話など、台詞も芸が細かい。主要以外の配役も面白く、ジムの会長とか序盤の中坊とか味があるとしか言えないキャストが多い。その上で松山、東出、柄本がそれぞれ様になってて説得力高い。松山の悪意なき純粋さとか、東出の超持ってるヤツ感、柄本の成長過程とか。主人公が3人いる群像劇として、所謂ボクシング映画にありがちなカタルシスは巧妙に避けられてる。試合の勝ち負けが作劇の軸になっていないが、登場人物の動機は純粋な「勝ちたい」という気持ちだけ。劇的なドラマを背負わせないからこそ得られるソリッドさ。他者の視点を代表する木村文乃からすれば、ボクシングに取り憑かれる彼らが理解の埒外に置かれる。純然たるボクシング映画なのに、というよりだからこそ殴り殴られるだけの行為が持つ不可解さがフォーカスされる。リアル過ぎるパンチドランカー描写の恐ろしさ、練習中の事故など、この競技自体の禍々しさも正面から描く。好きなものに人生を捧げる尊さと、残酷なまでに才能の有無が問われる世界の厳しさを描き、そこからこぼれ落ちた敗者たちに優しい肯定を提示するラストが泣ける。
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