ノストロモ

BLUE/ブルーのノストロモのネタバレレビュー・内容・結末

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

小さなボクシングジムを舞台にしたよくある青春群像劇かと思いきや、やや変化球だった一作。
本作が珍しいのは「結局ボクシングに出会った事は彼らにとって本当に幸福だったのか?」というある種究極の問いに対し、最後までグレーな姿勢を貫いているということ。この手の青春物語って色んな紆余曲折を描きながらも、何だかんだその時間自体を肯定的に描く事が多いと思うが、本作は頭から尻尾まで、ドライともいえるほどにフラット。特に小川の恋人である千佳の目を通して描かれる男達は基本どうしようもなく、健康面や将来設計などあらゆる自身の可能性をボクシングに吸い取られながらそれでもなおいっそう、沼にはまっていくように映っている。
(映画中盤でドランカー症状が出始めている小川の試合を見守る千佳が、リングに立つ小川本人と、小川の状態を知りながらリングサイドで檄を飛ばし続ける瓜田の背中を交互に見つつ一人静かに泣くシーンは、熱に取り憑かれた男達と彼女との決して埋まらない心の距離をセリフ無しで見事に描いた、本作屈指の名場面だろう)
ただ本作を見ているとむしろそのフラットさから、製作陣のボクシングへの、あらゆるボクサー達への敬意や誠意が伝わってくる。特にラストシーン、ジムから去った瓜田が一人静かにシャドーボクシングを行うあの場面は、物語の終わりとしてはもちろん、そこだけを取り出しても成立するような静かな迫力、鋭い美しさがある。個人的には「悪魔のいけにえ」のラストと同じくらい、印象的なラストだった。
主人公である瓜田が群像の中心でありながら今ひとつ魅力的に描かれておらず、そのため終盤の展開にやや説得力がないなど欠点もあるものの、制作やキャスト達の情熱がそこかしこから滲むように伝わってくる良作。ボクシングほどリズムや音が気持ち良いスポーツはない。
ノストロモ

ノストロモ