映画初心者

明日の食卓の映画初心者のレビュー・感想・評価

明日の食卓(2021年製作の映画)
3.7
月刊シナリオ7月号にて、脚本を読んでから観賞しました。

脚本を読んでから映画を観るという体験は初めてで、何だか不思議な感覚でした。
(シナリオに載っていたのは第何項なのだろうか?台詞や動きが変わっている部分が所々あったので、何故変わったのだろうと考えるのも楽しい。)

結論から言うと、私は脚本を読んだ時の感覚の方が好み。


まずは脚本のレビューから。


『石橋ユウ』という名の男の子が3人出てくるので、こんがらがりそうな印象だったが
三者三様、全然違う家庭で全然違う悩みを抱えていて、覚えやすく読みやすかった。

脚本は良い意味でとても分かりやすいと思います。
読み慣れていない人でも読めると思う。

今が物語のピークか…!と思いきや
さらにピークが来て…!
さらに来て…!みたいな後半の畳み掛けも良かった。
心情の進み方がリアルだし、とても満足感のある脚本でした。

この作品の伝えたい事は

『一歩間違えればこうなっていた』という事は言い換えれば
『何か一つ違えばこうはならなかったかも』という事。
どんな状況でも、結果的に何をしても母親は母親だし、
産まれて来なければ良かった命なんて無いという事。

世の中のお母さん、子ども達へ
貴方は十分頑張ってる。皆が悩んでる。
大丈夫だよ。家族を大切にね。

みたいな感じかなと。

つまりはエールを感じました。


それでは、お待たせしました。
映画のレビューです。



※※重要なネタバレ含みます※※

(※レビューが書きにくいので先にネタバレしてから書きます。本当にネタバレです。※)



物語冒頭で母親に殺される『石橋ユウ』くん。

本作には3人の『石橋ユウ』くんが登場し、どの子が殺されたのか?どの母親が犯人か?
みたいな感じで進むわけですが、

実は3人の母親は誰も息子を殺しておらず、4人目の『石橋ユウ』くんが出てくるというオチです。


つまり、冒頭で殺されるユウくんと殺した母親が
3人のユウくんと3人の母親に見えなければならない。

ちょうど映画『怒り』みたいな感じですね。(あれは指名手配犯の似顔絵)
3人とも犯人とちょっと似ていて、観客をミスリードさせる必要がある。

なのに、母親の髪の長さが全然違うのが気になった。
てっきり時間が経過して長くなる設定なのかなと思ったけれど、高畑充希はずっとショートヘアのまま。

諸事情あって髪の長さを揃えられないなら、冒頭の母親は髪型が分からない映りにした方が良い。

まあ冒頭にチラッと観たくらいでは初見の観客はそんなに気にならないのかな。

と思っていたら

後半、3人の母親がそれぞれ子どもに手を上げるシーンで、また最初の母親の映像が入る。

母親の髪型も違うし、部屋の家具も違うし、何もかもが3人の映像と違う。ただの『ユウくんに手を上げる第4の母親』が映る。

私からしてみれば盛大なネタバレだし、
何も知らずに観てる人なら「この映像は何?」ってなるのでは?苦笑

それが入るおかげで、その後の折角の種明かしシーンに全く衝撃が無い。

長くなりましたが一番の欠点はそこです。


続いて、役者陣。

私は高畑充希が好きなので、彼女が出るだけで概ね満足。笑

泣く演技の時に「絶対泣かねえぞ」って顔するのが好きなんですよね。
単純な事なのに何故かそれをやる女優ってあんまり見かけない。

ただ、喋り方や声質はやっぱり幼さを感じさせるので、この母ちゃんならもう少し大人っぽさが欲しかったかな。


大東駿介はこういう役が似合いますね。
『37セカンズ』のような良い人じゃなく、こういう残念なダメ男。笑

芝居が上手いとはあんまり思わないけれど、1回観ただけで顔と名前覚えた人だから、何故か観たくなる雰囲気みたいなのがあるんだろうな。

もう少し美味しい役どころで観てみたい人。


尾野真千子の友人役(山口紗弥加)は、最初から勧誘しそうな人感が見え見えで意外性が無かった。
見た目的にも妖艶な感じがあるし、演技というよりもキャスティングの段階で私が欲しかったものと違ったのかな。

この友人の使い方やクライマックスのサスペンス感、サイコ感は
個人的にはもっとハートフル方向に寄った方が良かったと思う。
怖そうにすることでチープ感が出て、共感性や問題提起が薄くなった印象。


そして本作で最も難しい役は裕福な家庭の石橋ユウくん(柴崎楓雅)だと思う。
(というか本作の子ども達は全員難しいよね。。汗)

『子どもは大人が思っている以上に大人である』という事を表現するべきなのだが、
結局それを表出出来ないのが子どもなのだと思う。
(だからサイコパスに見えたのだと思う。あの役は本来サイコパスではないはず。)

内側では考えていても、上手く出せていない。
『少年の君』のチョウ・ドンユィがリアル高校生だったらヤバいと評価したのはそういうことだ。

観客に伝わる内面の表現って、子役にはかなり難しいと思う。

本作の子ども達は下手では無かったと思うし、内面を持ってなくはない。と思ったけれど、
子どもらしい役ではない分、満足とはいかなかった。


まとめると、
○映像はネタバレになる要素が多々あり、ミステリーとして弱い。
○お芝居自体は良いと思うが、脚本を読んだ時に自分で想像した役の方が豊かだった。
○共感性やメッセージ性が薄れ、怖さや不気味さが勝っていた印象。

総じて、折角良くなりそうな作品だったのに惜しい。。という感じです。
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